2日間の番組ロケが終わった。JR佐世保駅の改札前で出演者やスタッフは解散だ。カメラマンやディレクターを含めたスタッフは広島に帰る。一方の、ゲスト2人は、故郷である長崎に残って、束の間の休日を迎えることになっていた。

 広島行き特急列車の出発時刻が近づいていた。「ちょっとだけいいですか?」。ゲストとしてロケに参加した大瀬良大地と今村猛は、小走りで土産物売り場へと消えて行った。

 戻ってきた2人は、スタッフ全員分の紙袋を抱えていた。「2日間ありがとうございました。楽しかったです」。快活な言葉を発する大瀬良の横で、今村は、両手で「うやうやしく」紙袋を抱え、頭を下げながらスタッフ一人一人に土産物を渡していた。

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 あれから6年以上が経った。今年10月14日、カープから来季の契約を結ばない選手が発表された。その中に、今村の名前があった。

 質の高い快速球、変幻自在のフォークボール、チームの3連覇の原動力でもあった。ただ、真っ先に思い出すのは、あの紙袋を手にした控えめな笑顔である。

今村猛 ©文藝春秋

取材メモに並んでいた今村の価値観を物語る言葉

 2009年のドラフト1位指名でカープに入団した。プロ12年、431試合に登板した。3連覇の間は、「67試合、68試合、43試合」、粉骨砕身のフル回転だった。

 寡黙で口数は多くはない。投球について多くを語ることもなければ、活躍ぶりに胸を張ることもなかった。マウンドでも同様である。ガッツポーズもなければ、大声で吠えることもない。投球フォームは極めて無駄がなく、抑制された動きの中から快速球を生み出していた。

 我々メディアからすると、凄みや人柄を伝えることが容易な選手ではなかった。ただ、もっと「本質」を伝える義務が我々にはあったと思う。

 過去の取材メモを整理すると、今村の価値観を物語る言葉が並んでいた。まずは、球団歴代最多の115ホールドについてである。「野球は9回まであるスポーツです。その中で、先発の勝利を消さないこと。そして、後ろの投手に良い形でつないでいく。そういう気持ちでマウンドに上がっています」。

 先発でも成功しただろう。ストッパーであっても、一流の成績を残しただろう。しかし、今村は、両者をつなぐ仕事で光り輝いた。

「目立たないかもしれませんが、先発の作ってくれた試合の流れをつなぐことにやりがいを感じています。得点の奪い合いになれば、相手を三者凡退に抑えることは大事にしています」

 どこまでも、フォア・ザ・チームの選手だった。試合展開を考えながら、間合いやリズムにも気を配った。少ない球数で抑えることも意識した。一球一球、同じ球種でもスピードや曲がり幅を考えながら投げていた。