けんいちろう 僕はその頃結婚するつもりでした(笑)。旅することで自分の人生から逃げていたけど、実はそんなに旅が好きじゃないって気づいて。このまま旅するより、さーちゃんとこの村で暮らしたいと思ったんです。
その旨をさーちゃんに伝えるんですけど、「はいはい」という感じで真剣に受け取ってはくれなくて。
さーちゃん 外国人から結婚しようと言われることなんて何回もありました。茶屋で働いていると「僕と結婚してください」とか結構言われるんです。でも実際にその気がある人なんていなくて。旅の途中でテンションが上がって言ってるだけなんですよね。だからけんいちろうの言葉もどうせ今だけだろうと思っていました。
それに私は大学生だったし、まだ姉が結婚していなかったので、私が先に結婚することはできなかったです。ネパールでは上の兄弟から順番に結婚するのが普通なので。そういう村のしきたりを守らないと家族が悪口を言われるんです。村八分にされることもあるし。
初デートするも、隣を歩くことはできず…。
けんいちろう 僕はめちゃくちゃ本気でしたけど(笑)。さーちゃんは茶屋の仕事と大学で忙しくて僕とデートする暇なんてなくて、ある日、痺れを切らして「デートしたいんだけど休みの日ある?」って言ったんです。そしたら「私が働かなかったらこの店は開けない。休みなんてないから無理」って。
さーちゃん 私は毎朝4時前に起床して、隣の山へ水汲みに出かけて、帰宅後、5時頃に山から1時間かけて下山し、ポカラの大学へ通っていました。昼頃に大学から帰宅して、家畜の世話や農場を手伝って、昼過ぎから茶屋で働いて、夜は家族の夕食作り…。夜10時に就寝です。この生活を16歳のころから続けていました。だから遊ぶこともないし、恋愛する暇もなかったです。
けんいちろう さすがに毎日こんな生活を送るなんてあまりにもかわいそうだと思って、さーちゃんのお姉さんに相談したら、「デートしていいよ!」って(笑)。家族思いのさーちゃんなので、ずっと自分の時間を我慢していたんでしょうね。それで初めてデートすることができたんですけど、隣を歩くことはできず…。
さーちゃん 結婚していない男女が歩いていたらどんな噂になるかわからないからね。ネパールでは日本みたいに若い男女がデートなんてあまりないです。
けんいちろう そんな感じで距離はあるものの、少しずつですけど仲良くなっていって。でも結婚するにはそれなりのお金がないといけなかったし、一度日本に帰って準備しなきゃいけなかったし。だから一度帰国するんです。
さーちゃん これで終わりかもと思いましたけど、けんいちろうは帰国してからも毎日連絡をくれて。でも村の電波が悪いのでほとんど聞き取れないんです。「…え…あ……」みたいな(笑)。
けんいちろう せっかくスマホがあるのに、電波の障害があって(笑)。連絡しても返信は遅いし、電話もほとんど意味をなさないし。当時は半分諦めていました。
【後編を読む】ネパールのカースト上位の役人にいびられ、村の老人には騙された…結婚後2年間、離れ離れで暮らした夫婦の壮絶すぎる人生