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《真珠湾攻撃80年》元参謀が語った作戦当日の朝「ニコニコしながら話し合っていた」「タバコか酒でも買いに行くような格好で静かな顔つきをしていた」

『真珠湾作戦回顧録』より#1

2021/12/08

source : 文春文庫

genre : 読書, 歴史, 社会, 政治

note

「われ、敵主力を雷撃す、効果甚大」

 飛行機隊が発進して、未曾有(みぞう)の大奇襲攻撃を行なった実況については、攻撃隊の生き残りの人の著書もあるし、リーダーズ・ダイジェスト社発行の『トラトラトラ』にも詳しく記載してある。殊に映画「トラ・トラ・トラ!」は実況に最も近いものであろう。筆者が拙い筆をもって、ここに重復する必要はないものと思う。

 出発前、淵田と私との約束で「トラ・トラ・トラ」の発信は、敵に邀撃の準備がなかった場合に発信することになっていたので、赤城の艦橋にあったわれわれは、攻撃効果の入電があるまでは安心がならなかった。ことに雷撃隊の攻撃効果である。

 総指揮官が突撃を下命し、おおむね順序よく攻撃が行なわれているらしいことは、赤城の艦橋でほぼ想像できたのであるが、それにしても待たれるものは、攻撃効果の報告であった。

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 全攻撃隊の中で、一番先にはいったのは村田雷撃隊長の報告である。

「われ、敵主力を雷撃す、効果甚大」

 この電報を受け取った時ほどうれしかったことは、私の過去にはない。しかし、赤城の艦橋における表情は静かなものであった。

 南雲長官、草鹿参謀長以下各幕僚がいたが、みんな顔を見合わせてニッコリとした。私と真正面で見合った南雲長官の微笑は、今でも忘れることができない。これで長い年月にわたる苦しい鍛練が報われたのである。

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まるで落語でも話すような調子で

 村田少佐が着艦して、一応正式の報告が終わった後に話し合った。

「おい、ぶつ、あれほどうれしい電報はなかったぞ」

「そうですか、発射を終わり、敵艦のマストをすれすれに飛び越して後ろを振り向くと、水柱が高く上がっていました。当たったぞお!! と偵察員に言うと、彼も、当たりました!! と答えたのですが、気がついてみると、まわりは敵弾が火をひいて走っているのです。おっとっとお! と大急ぎで、その場を飛び出しました」

 と、まるで落語でも話すような調子で語っていた。

 村田報告に続いて、各攻撃隊指揮官からは引きも切らず電報がはいった。

「われ、敵主力を爆撃す、効果甚大」

「われ、敵基地を爆撃す、効果甚大」

 すべて、この種の電報の洪水であったが、中にただ一つ、

「われ、敵基地を爆撃す、効果小」

 というのがあっただけである。

 報告が終わったところで淵田に、

「おい、淵! ご苦労だったなあ」

 と労をねぎらったところ、

「うん、ざまあ見やがれと言いたいところだ。出てきやがったら、またひねってやるよ」

 と、これまた草野球でもやった後のようなことをいっていた。