自然のなかでの子育てがすばらしいことは誰でも直感できる。でも、それが具体的に何を育てているのかと問われると、言語化は難しい。言語化できないからといって、存在しないわけではない。
森のようちえんではむしろそういう言語化できないものの価値をまるごと直感的に感じとる感受性をもつひとを育てようとしているのだ。それこそいま話題の非認知能力とも言える。
卒園生たちは逆境に強く、自尊感情も高い!?
それなのに、わかりやすいエビデンスだけをもとにして教育施策が講じられれば、非認知能力的なものを育む教育がどんどん忘れ去られる。目に見える数値に振り回されたなれの果てが、偏差値教育であり、受験競争教育なのである。
森のようちえんの教育効果を示すエビデンスらしいものはまだないと内田さんは言うし、森のようちえんの本質的な価値はエビデンスにはできないと思うのだが、参考として、森のようちえん全国ネットワーク連盟発行の「森のようちえんの世界」という冊子に掲載されているデータを引用する(図)。
上越教育大学大学院准教授の山口美和さんによる「『森のようちえん』の教育的効果」という研究結果だ。森のようちえん卒園生たちと、そうでない園を卒業した小学生を比較している。山口さんは森のようちえん卒園生たちについて「ポジティブで柔軟な思考を持ち、逆境に強い」「基本的自尊感情が高く、運動能力についての社会的自尊感情も高い」と述べている。
また、三重県による「野外体験保育有効性調査(平成28年3月)」でも、「野外体験保育の実施頻度が高い保育施設ほど、多くの園児に『自分からすすんで何でもやる』『さまざまな情報から必要なものが選べる』『自分に割り当てられた仕事はしっかりとやる』『人のために何かをしてあげるのが好きだ』などの様子が見られる施設の割合が高い」という結果が得られている。
国立青少年教育振興機構による「青少年の体験活動等に関する実態調査(平成26年度調査)」からは、自然体験が多いほど道徳観や正義感が強く、自立的行動習慣が身についており、自己肯定感が高いという結果が読み取れる。