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2021/10/13

source : 文藝春秋

genre : ライフ, 読書, 社会

皆がそれぞれ人生を楽しく過ごすために

 このようなエゴイズムにとって、応答すべき他者は存在せず、従って責任という概念も存在しなくなる。ひろゆきは、匿名掲示板というシステムの価値をいちはやく発見することで、楽をして成功したことをひとつの美談として語っている。しかしひろゆきがつくりだした『2ちゃんねる』は、ネトウヨ・レイシストの温床となった。あるいは彼が買収したアメリカの『4chan』は、ドナルド・トランプ(ひろゆきがポピュリズムとして批判している)の支持者たちが、差別や陰謀論でアメリカ政治を乗っ取っていく拠点となった。

 こうした問題について、ひろゆきは書き込んでいる側の問題として、無関心を決め込んでいる。『2ちゃんねる』管理人時代、ひろゆきは様々な裁判の敗訴により約30億円の損害賠償を請求されるが、法の網をかいくぐってそれらを踏み倒すことに成功した。ひろゆきの述べるように、皆がそれぞれ人生を楽しく過ごすために好き勝手なことを追求していった場合、皆が幸福になる、というのは幻想で、責任概念が失われている限り、あらゆる問題が放置され続ける社会となり、そのしわ寄せは、結局は弱者へと向かうだろう。

ひろゆき氏 ©文藝春秋

責任概念なき個人主義思想の流行の危うさ

 これまで見てきたように、ひろゆきの説く幸福になる技術は、世の中を非効率的なものにし続けている「バカ」を仮想敵にしたうえで、その「バカ」をいかに出し抜くか、というものだった。しかしこの考えの前提には社会を否定する責任概念なき個人主義がある。こうした思想が若い世代に流行するのは理解できなくもないが、危うさも感じる。

 個人の利益を追求するのに特化した若者は、結局は各個撃破され、「バカ」を出し抜いたようでいて、いつのまにかその「バカ」に取り込まれてしまうのではないだろうか。人権概念抜きのライフハックばかりもてはやされた結果、近代社会が達成してきた、権力をもたない人々のための諸権利が解体されてしまうのではないだろうか。

 現在、ひろゆきのようなインフルエンサー的な人物は、それぞれ少しずつ違った「啓発」を行っている。しかし、全てに共通するのは、この人権感覚を欠いた、責任概念なき個人主義思想ではないだろうか。

自身のYouTubeチャンネルで謝罪をするDaiGo氏(YouTubeより)

 たとえば8月上旬に「炎上」したメンタリストのDaiGoもそうだろう。このような人たちの言説やキャラクターをメディアが面白がり、露出度を増やすことによってますます影響力を増していく。この現状の先にあるのは、けして明るい未来ではないと思っている。(文中敬称略)

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