9月9日にサントリーホールディングスの社長である新浪剛史社長がオンラインセミナーで発言した「45歳定年制」は、大きな議論を巻き起こした。どちらかといえば否定的な意見が多数となる中、肯定的な意見を述べる者もいた。西村博之、いわゆるひろゆきもその一人だ。彼は19日、TBS系「サンデー・ジャポン」に出演した際、「45歳定年制に反対している人って、無能だけど会社にしがみつきたいという人だと思うんですよね」と述べた。また、9月19日には「仕事が向いてないならベーシックインカムで暮らす社会でいいかと。」とツイートした。
「論破」のカリスマと化したひろゆき
匿名掲示板『2ちゃんねる』の創設者として知られるひろゆきは、近年このような「辛口」コメンテーターとして、テレビなどでの需要が急速に高まっている。YouTube の個人チャンネルや著作物等も、特に若い世代に人気だという。「論破」という言葉も流行っている。この言葉は、ひろゆき自身は肯定的な意味で用いていないにもかかわらず、ひろゆきの議論の強さにあやかって「論破力」を高めようとする者は老若男女問わず多い。
なぜひろゆきはここまで人気なのか。今日のメディアでの振る舞いから受ける印象では、ひろゆきは「意識高い系」と呼ばれる人たち、つまり「向上心」に溢れ、日々「成長」のための「自己研鑽」を欠かさないような人たちのカリスマのように思える。世の中は毎日成功への努力を欠かさない有能な者のために存在するのであり、怠惰で無能な者のためにある規制や仕組みはなくなっても構わない、と考える、新自由主義思想の持ち主だ。
しかし、ひろゆきが開陳している思想をよく検討してみると、彼は単純な新自由主義者とは一線を画すようなポジションを確保しようとしていることが分かる。2020年に出たひろゆきの著作『1%の努力』(ダイヤモンド社)や『叩かれるから今まで黙っておいた「世の中の真実」』(三笠書房)は、ひろゆきのそうした傾向を明らかにする本だといえる。
リベラル? 左翼的?
『1%の努力』は口あたりがよい本だ。テレビやネット、あるいは他の著作にみられるような「辛口」のイメージは、この本からはほとんど見出すことはできない。本の内容から受ける印象は、リベラルであり、場合によっては左翼的にさえ読むことができる。なぜか。この本は服従と勤勉さという通俗道徳からの離脱を説いているからだ。この通俗道徳は、資本主義的強者に都合の良い従順な労働者を生むことに寄与してきた。ひろゆきは、こうした思考を転換させることを主張する。