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 名目上の地位があっても、実権を与えないんです。

 新疆で第一に感じたのは、ウイグル人がすっかり気力を失っていることでした。あまりにも長期間、植民地的な抑圧政策を受けてきたために、やる気を失くしているんです。

 私などは「なぜ漢民族に抵抗しないんだ! 殴られたらやり返せばいいじゃないか!」と言うのですが、「いやいや、とても無理だ」という反応で、どこか暗いというか、非常に鬱屈したものを感じました。それだけ徹底的に弾圧されてきたということです。個人で奮闘したところで、すぐに逮捕、投獄され、テロリストのレッテルを貼られるだけ。そういう諦めのようなものも感じました。

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公共空間での中国語の強要

于田 自治区の会議では、上にウイグル語、下に中国語で掲示が出ていましたが、今はウイグル語の掲示はないかもしれません。新疆大学のロゴマークも、ウイグル語と中国語の大きさが同じぐらいでしたが、ウイグル語がだんだん小さくされて、やがて削除されてしまいました。その後、ウイグル語表記は復活はしたのですが、元は英語の「ユニバーシティ」を意味するウイグル語だったのに、中国式の「大学」に変えられました。

 内モンゴルでも、2020年あたりからモンゴル語の看板が大量に外されて、書店からは、モンゴル文化やチンギス・ハーン関係の本が姿を消しています。建物には「公共の場につき、中国語を使いなさい」というスローガンが掲げられて、公共の場でウイグル語やモンゴル語で喋っていると、「あいつは信頼できない。減点だ」ということになります。

写真はイメージです ©iStock.com

于田 まさに「『内心』で中国政府に反対している民族主義者だ」ということになるわけです。

「中国共産党」は、かつてはウイグル語式で「ジュングォコムルスパルティ」と言っていましたが、今では中国語式で「チュングォゴンチュワンダン」と呼ぶようになりました。

 「中国」は、ウイグル語で「ジュングォ」と言うのに、「チュングォ」と言わなければダメになったんです。「キタイ」というテュルク語系の言い方もありましたが、これもダメです。

「党」も、「パルティ」というウイグル語ではなく、「ダン」という中国語読みにしろ、と。以前はいかにも中国的な用語は中国語で発音しろということでしたが、今から見れば、まだ序の口で、その後、全面的に中国語化が進められたわけです。

子供の名前も自由に付けられない

于田 いまの新疆では、子供の名前も自由に選べません。「モハメッド」といったイスラーム色の強い名前は、明確に禁止されています。しかも名前に使う漢字にも制限があります。

 少数民族の名前だと、どうしても漢字は当て字になるのに、そこで「この字を使え」と限定される。文革期の南モンゴルでもそうでした。モンゴル人で「衛東(=毛沢東をまもる)」「東風(=西側に勝つ)」「文革」といった名前だと、文革期の生まれだとすぐに分かります。

于田 町や通りの名前も、ウイグル語名から中国語名に変えられました。