10月10日に行われた出雲駅伝は、東京国際大学の初出場初優勝で幕を閉じた。
「今年の3大駅伝はどの大学が勝つのか誰も読めない」と語る、駅伝マニア集団「EKIDEN News」の西本武司氏に、今大会で見えた気になる駅伝トピックスを聞いた。これを覚えておくと、その後の全日本大学駅伝や箱根駅伝もきっと楽しめる(前編から続く)。
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【5】駒澤大の「原点と責任」を感じるべし
前回の箱根駅伝で優勝した駒澤大学は毎年標語を作っています。大八木監督の部屋にずらっと並ぶ年間練習記録ファイルの背表紙には毎年の標語が。この標語には「原点と○○」と、必ず“原点”が入ります。
今年の標語は「原点と責任」。サブタイトルは「感謝の心を形に」。
箱根の勝者であり、直後には世間もお騒がせした。それらも含めて責任である、と。なかなか重たいですが、さすが駒澤、素晴らしい標語です。
今回、この「原点と責任」をまざまざと感じさせてくれた出来事がありました。
出雲駅伝には僕ら駅伝好きが「もうひとつの出雲駅伝」と呼ぶレースがあります。出雲駅伝が終わった後に近くの浜山公園陸上競技場で行われる、出雲市記録会5000mのことです。出雲駅伝で補欠にまわった選手たちが出場するのですが、彼らにとってとても大切な記録会。出雲駅伝までもってきたピークをここで出し切っておくことで、次の全日本につなげるという意味合いもありますが、ここを走る選手が後に全日本大学駅伝や箱根駅伝で活躍することも多く、ネクストブレイク枠を探るレースでもあります。
ところが今年はコロナ禍でこの記録会も中止に。そこで大八木監督が帝京大学と創価大学に呼びかけて、出雲駅伝を走れなかった3校6人の選手のためだけに、浜山公園陸上競技場のサブトラックを使って非公式な5000mのタイムトライアルを行ったのです。会場にいたのは、コーチや関係者。そしてとりわけ熱心な陸上専門記者のみ。
3000mまで参加選手を引っ張る役目を任されたのは今年の箱根駅伝5区で2位の好走を見せた創価大学の三上雄太選手。大八木監督からの三上選手への指示は400m67秒ペース。これは5000m換算だと14分00くらい。出雲駅伝のハイペースを再現するだけでなく、最後は競り合って、みんなで13分台を目指せというメッセージでもあります。審判もいないタイムトライアルでありながらも、本番のレースさながらのピリピリしたムードの中スタート。
「これも駅伝だからな!」と大八木監督の檄が飛ぶなか、選手たちは必死で走りますが、何しろこの日の出雲は夕方でも暑かった。
トップは駒澤大学の佃康平選手で14分9秒6。激走を終えた選手たちに、たまたま居合わせた人たちが拍手を送ると、大八木監督は「お前らは幸せものだな、練習をやって拍手がもらえるなんて」と言う。みんなちょっとジ~ンと来ていたのですが、次に大八木監督が発した言葉に驚きました。
「リカバリー600m+1000m!」
みんな力を出し切って、やりきった表情をしているところに1000m追加。まさかのおかわりです。
選手も観てた人たちも、みんな「ええっ!?」と驚き、さすがの創価大と帝京大も「うちはちょっともう無理です」という空気(笑)。しかし、6人は見事「1000mのおかわり」を完遂します。ところがこれで終わらない。
「じゃあホテルまで走って帰れ」と、さらに5km追加です。
これが駒澤の「原点と責任」なのです。今年もいいものが見れました。