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東京国際大の「駅伝力」と青学大の「よこたっきゅう」がすごかった――出雲駅伝「TVに映らなかった名場面」前編

2021/10/16

 10月10日、2年ぶりに出雲駅伝が開催され、今年もいよいよ駅伝シーズンがスタートした。下馬評を覆し、初出場初優勝を果たしたのは東京国際大学だった。

「今年の三大駅伝はどの大学が勝つのか誰も読めない。だからこそ駅伝は面白いのだと思わせてくれた出雲だった」と語るのは、駅伝マニア集団「EKIDEN News」の西本武司氏だ。

 そこで今大会で西本氏が特に気になったマニアックすぎる7つのトピックスを教えてもらった。これを覚えておくと、その後の全日本大学駅伝や箱根駅伝もきっと楽しめる。

出雲駅伝のスタート

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【1】真夏の五輪より過酷だった今年の出雲駅伝

 ハーフマラソンに近い距離を走る箱根駅伝に比べて、出雲駅伝は最短区間5.8km、最長区間でも10.2km。そのため、距離が短いから楽だろうと思われる人も多いのですが大間違いです。

 なぜなら選手たちは、出雲駅伝に向けて準備をしているとはいえ、たっぷりと走り込んだ夏合宿を終えて、まだまだ疲労がたまった状態。さらに距離が短いがゆえにトラックレースに近いスピードで走りぬけなくてはいけない。前を走る選手との差もハーフマラソンほどの距離がある箱根ならば、時間をかけて追いつくことができるけれども、距離が短い出雲は最初から突っ込んで追いつく必要がある。つまり、出雲は見た目以上に過酷な大会なのです。だから距離は短いけれど、倒れ込んだり、脱水症状を起こす選手も多い。

 加えて今年はスタート時の気温が30.1℃。昼スタートなので陽射しもハンパない。

 僕は東京オリンピックの競歩とマラソンの撮影で札幌に行きましたが、記録的猛暑と言われた五輪のマラソンは涼しい早朝スタート。気象条件としては出雲駅伝の方が過酷でした。しかも時間をかけて暑熱対策をしてきたオリンピック選手とは違い、出雲駅伝の選手たちは高原などの涼しい地域で夏合宿を過ごした後で、暑さに慣れていない。大会側もあまりの暑さに、例年はない給水を急遽用意したほど。

 スタートラインに並んだ選手たちはみんな手に氷を持っていて、駒澤大学の大八木弘明監督は「ギリギリまで氷を持っておけ。スタートしたら離していいから」と選手に指示を出していたようです。

 気の毒だったのはアンカー区間です。この時間帯が最高気温に達したこともあって、1位でゴールした東京国際大学のイエゴン・ヴィンセント選手をはじめ、駒澤大学の田澤廉選手ら有力選手もゴール後はヘロヘロの状態。フィニッシュ地点での選手控え室はまるで野戦病院のようでした。

 なかでも気の毒だったのは札幌学院大学です。彼らがどれほど辛かったか。1区スタート前、頭にのせたハンパないデカさの氷のうがそれを物語っていました。

札幌学院大学の選手と大きな氷のう

 一方で万全の暑熱対策をしたのではと思ったのが東洋大学。レース前、酒井俊幸監督は「主力選手をエントリーできなかったこともあり、ステップという位置付け。出雲駅伝は若い力が経験を積める貴重な大会です」と語っていましたが、きっちり3位でゴール。

 スーパールーキーの石田洸介選手がレース後「東京オリンピックを間近に見てきた監督の話は、僕が考えたり、想像したりするよりも、ためになることばかりです」と言っていました。実は東京五輪の競歩日本代表の池田向希選手と川野将虎選手は東洋大学出身。酒井監督と妻の瑞穂コーチは競歩ナショナルチームに帯同していました。経験の少ない下級生中心の東洋大学が過酷なコンディションでも大崩れすることなく襷をつなげたのは、「世界一」と言われる日本競歩陣の暑熱対策を出雲でも生かしたからではないかと睨んでいます。