――飲食店や教会も実在の場所を取材されていますね。コロナ禍で大変だったのではないでしょうか?
田川 そうですね。屋外の風景については、ほとんど旭川で取材しました。ちなみに作中で何度か登場する橋と川は、旭橋と石狩川です。
コロナの影響といえば、特に第5話の病院の取材が大変でしたね。当然ですがなかなか入らせてもらえる病院がなくて…。色々な病院をあたって、自分がお世話になった近所の病院から唯一許可をいただけて、なんとか描くことができました。
取材依頼の電話をしたら「田川先生ですか?」と訊かれまして…なんと病院内に『ひとりぼっちで恋をしてみた』の読者さんが3人いたんです。こういう嬉しいことがあるから、自分は北見市を離れられないんだと思います(笑)。
――第1話と第5話に登場する、2本の手のオブジェが気になってました。あれは一体…?
田川 あれは買物公園にある「手の噴水」という彫刻です! 夏場は子どもが水遊びしていましたね。大学生のときによく前を通っていて、この場所も個人的に思い入れがあります。
「男女2人の組み合わせにグッとくるんです」
――マンガ『バトン』はオリジナルエピソードも多いですね。優子と森宮さんの会話も、オリジナルといいますか、原作を田川さん流にアレンジされている印象を受けました。
田川 元々二次創作が好きで、人が作った物語を「もっと膨らませたい」というモチベーションが強いタイプです。今回も楽しんでコミカライズしました。高校生のときは友人と二次創作をしたこともあって、昔からキャラクターの話をもっと知りたいし作りたい、という欲求が強いのかもしれません。
優子と森宮さんのオリジナルの会話については、自分が演劇をやっていた経験が関係していると思います。高校生の頃に地元の「劇団動物園」の演劇を見て衝撃を受けまして…大学に入って自分でも演劇を作るようになりました。
僕はなぜか男女2人の組み合わせにグッとくるものがあって。恋愛でも恋愛でなくても、どんな関係性でもいいんです。お笑いコンビも「ラランド」さんや「蛙亭」さんが大好きです。大学卒業前に作ったお芝居も、破局寸前の男女が会話し続ける内容だったな…(笑)。
原作を読んだときに「自分の好きな会話劇が描けるな」と第一印象で感じました。原作は瀬尾さんが生み出したキャラクターの生き生きとしたやりとりが魅力です。なのでこのマンガ版では、優子ちゃんや森宮さんのキャラクターをお借りして、自分なりの会話劇を表現しました。もう一つの『バトン』の物語として楽しんでもらえたら幸いです。
――田川さんの次回作も男女の会話劇が見られるそうですが…?
田川 はい、まだ詳細はお伝えできないんですが…。実は『バトン』と並行しながら準備していました。男女の会話劇が共通しているとはいえ、内容は全然違うので気持ちの切り替えが大変でした(笑)。詳細を発表できるのを楽しみにしています!
――田川さん、ありがとうございました!
マンガ『そして、バトンは渡された』は本日発売開始。冒頭50ページ以上を「文春オンライン」で公開中。第1話を読むにはこちらから。