「生活の中で“辛い”と感じることはないですか?」マンガ『そして、バトンは渡された』では、主人公の森宮優子が教師にこのような質問をされるシーンがある。なぜなら彼女は家庭の事情でこれまで3回も苗字が変わっていて、今は血の繋がらない「父親」と2人暮らしをしているからーー。
2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんの小説をコミカライズした本作は、単行本が10月19日(火)に発売された。作画を手がけたのは『ひとりぼっちで恋をしてみた』(講談社)などを手がける田川とまたさん。
田川さんは学生時代、両親の影響もあり教師の道を考えていたそうだ。原作の瀬尾さんも国語教師だったため「お話をいただいたときは縁を感じた」という。本作のコミカライズ過程について、話を伺った。
両親に薦められ、周りからも「向いている」と言われて先生を目指したけれど…
――最初にコミカライズのお話を聞いた時の感想をお聞かせください。
田川 最初はシンプルに嬉しかったです。原作の『そして、バトンは渡された』は、2019年の「本屋大賞」の候補に挙がっていた段階で購入していました。僕はあまり小説を読む方ではないのですが「話題作は読んで勉強しておかないと」という気持ちで書店に寄ったんです。本を手に取ってあらすじを見た段階で自分の作品に活かそうと思いましたし、小説を読んでみると案の定親近感が湧きました。
でも、まさか自分がコミカライズするとは思わなかったので、驚きました。
――最初にお電話を差し上げたときに、田川さんが「瀬尾さんと同じく、母も教師をやっているんです」と仰っていたのが印象に残っています。
田川 実は父も教師なんですよ。両親からは先生になることを薦められていましたし、友人からも「向いてるよ」と言われていました。自分ではよく分からないのですが、性格とか、喋り方なんでしょうかね?
小学校の免許と中学校美術、高校美術、中学校英語、あとは保育士資格ももっています。余談ですが保育士資格の2次試験は実技で、ピアノとかお絵描きをやるんですが、「お絵描き」は満点をとりました(笑)。児童デイサービスや児童福祉司の道も考えてた時期もありました。
でも教育実習を2回やって「向いてないな」と。人と話すのは好きですし、子どもたちもいい子なんですが、大人数の前で話すことに緊張してしまいました。他者の所作を敏感に受け取りすぎてしまって「この空間でいられるレベルではない」と思ってしまったんです。