みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えします。

中野信子さん ©文藝春秋

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Q 夫婦間のジェンダーギャップに悩んでいます――72歳・同い年の夫を持つ妻からの相談

 私たち夫婦は高校の同級生です。子どもはなく、夫婦とも理系に進み、共働きで定年を迎えました。私はその後の二人の静かな生活を想像していましたが、現実はまったく違います。つれあいは命令口調が抜けないのです。男はそれでいい、そして女は従うべきだと思っている。

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 リベラルな人だったはずなのに、そうじゃなかったと今ごろ気がつきました。お互いにあと何年生きるか分かりませんが、これから折り合いをつけることができるものでしょうか?

中野信子の回答

A 高校の同級生ということは、お付き合いは五十数年間に及ぶわけですね。夫がリベラルな人ではなかったことに「今ごろ気がつきました」とありますが、今までフタをしていた、つまり、見えていたけれど見ていなかったのではありませんか。見て、認識してしまうと、辛いことになってしまう。だから脳は、楽をするために敢えて気づかないふりをすることがあります。

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 お二人は団塊世代。学生時代はいろいろな社会問題を議論してきたのではありませんか。それでも、夫はまだまだ男性が命令口調でものを言い、女性はそれに従うのが普通だと思っているのでしょうね。しかし、明らかに社会の価値観は変わりました。夫婦は平等で、夫も妻を尊敬すべきだという世の中に変わりましたよね。この変化に、妻だけが気づいているんですね。

「ジェンダーギャップに悩んでいます」というのは、夫婦間のジェンダーギャップというよりは、若い頃のジェンダーギャップと今のジェンダーギャップが違っているので、その変化に戸惑っているということなのではないでしょうか。さすが理系ですね、鋭い観察力をお持ちです。