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 恐らくこれは私が比較的若め(とはいえ30歳)の女性だったためだとは思うのだけれど、とにかく距離の詰め方が異常で、例えば「これってどこに置きます? え、そっち? 普通こっちじゃないスか~」とか「え~、これはそっちなんスかぁ?」など、終始ナメきった態度で不必要な絡み方をしなくては気が済まないらしく、しかも頻繁に「ええ、さっきはこっちって言ってた(言ってない)のになぁ(小声・舌打ち)」など悪態をつくので、結果としてこの男性がブチギレの直接的な要因になってしまった。

 とにかく荷物が安全に運ばれることが最優先だったのと、住所と名前と顔が相手に知られている以上、恨みを買うのも嫌だったのでなるべく穏便に済ませようと極限まで我慢をしたのだけれど、最後の最後でどうしてもダメだった。

お口直しに新居に到着したての猫をご覧ください ©吉川ばんび

まさか怒られるとは思っていなかったおじさんは

「荷物は以上なんスけど、大丈夫っスよね?」と確認のサインを求める男性に、真顔で(柔和な態度だとこちらの意図が伝わらない相手だったため)「掃除機が梱包されずにそのまま運ばれていて、しかもデスクの足と一緒のダンボールに入れられていたので、見てもらったらわかるんですけど、傷だらけになってるんです。今は電源が入りますけど、内部にも衝撃が加わっていると思うので、こういった場合はなにか補償などしてもらえるんでしょうか」と質問した。そうすると私も驚いたのだけれど、男性は「あー……」と言ったきり何も言わなくなり、搬入時に壁を保護するために貼っていたダンボールやテープの撤去作業に取り掛かり、帰る準備をし始めた。

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 いやいや逃がしてたまるか、と思った私が「聞いてます?」と尋ねると、男性は「ハイハイ」と言って取り合おうとしないので、さすがに語気を強くして「いや、『ハイハイ』じゃなくて、一旦こっち来てもらって掃除機見てもらえますかね」と伝えると、男性は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。その表情から察するにどうやら、私のことを「無礼な態度を取っても怒らない相手」だと、高をくくっていたようだ。

 傷だらけになった掃除機を見た男性はあきらかに狼狽しているようで、「あー」とか「うーん」と唸り声を出すだけのbotと化してしまったので、ひとまず掃除機の傷部分の写真と、むき出しのままデスクの足と一緒に運ばれてきた状態がわかる写真を撮ってもらい、会社に確認をしてもらうようお願いした。