昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

さだまさしが語るヤクルトへの期待「みんなの力が集まれば何かができる」

文春野球コラム ペナントレース2021

 スワローズファンクラブ名誉会員のさだまさしさんが昨年の文春野球コラムクライマックスシリーズに続いて、今年も登場! 文春野球スワローズ初代監督で、今季も高津臣吾監督、石川雅規投手などヤクルト関連の取材、著作を数多く生み出している長谷川晶一氏との対談が実現。意外にも初顔合わせとなったお二人の「セ・リーグ優勝記念トークバトル」をお楽しみください。

優勝ペナントを持って場内一周する高津臣吾監督らヤクルトナイン

優勝の要因は、中村悠平の成長

長谷川 ついにヤクルトが優勝しました! ぜひ、さださんと喜びを分かち合いたいと思ってやってきました。昨年に続いて二度目の文春野球登場になりますが、改めて今年の「高津ヤクルト」をどのように振り返りますか?

さだ 僕も含めて、ヤクルトファンの多くは「戦力は互角だ」という思いはあったと思うんです。去年だって、歯車がうまくかみ合えば優勝の可能性だってあったんじゃないのかな? だけど、こんなに思惑通りに進むとは思っていなかったですけどね。

長谷川 2年連続最下位で迎えた今シーズンも、さださんの中では「戦力は互角だ」という思いがあったんですか?

さだ 僕は毎年、全然悲観なんてしてないですよ。去年も一昨年も、「よし、今年は行けるぞ」って思っていましたから。要するにかみ合わせなんですよ。たとえば、石川雅規投手が投げるときに、全然点が入らなくて、「3点あれば勝てたのに……」って思うことが単に多いだけ(笑)。選手層で言えばジャイアンツにはかなわないかもしれないけど、個々の能力では決して劣っているとは思えないですから。

長谷川 そうですよね。山田哲人、村上宗隆というリーグを代表する打者がいて、日米通算2500安打の青木宣親、そして石川雅規という現役最多勝投手も、奥川恭伸という期待のホープもいるわけですからね。さて、さださんは今年のリーグ制覇の立役者は誰だと思いますか?

さだ 今年は、中村悠平捕手の成長を強く感じたシーズンでしたね。去年、一昨年までは「えっ、そのボールいる?」って、素人ながら思ってしまうボールを投げさせたりしていたけど、今年は腹をくくったような、怖がらないリードをしているように見えましたね。「人はこんなに変わるのかな?」って思いながら見ていました。

長谷川 石川投手に話を聞くと、「今年のムーチョ(中村)は堂々としていて頼もしい」と言っていました。何が原因で変わったと思いますか?

さだ やっぱり、古田(敦也)さんの影響でしょう。春季キャンプで、古田さんの指導を受けて勇気が出たんじゃないのかな? 古田さんが監督だった頃は、彼自身が神だったから選手たちも恐れ多くて、その言葉が入ってこなかったと思うんです。でも、時間が経過して若い人たちが多くなってくると、「神」から「尊敬する先輩」になって、素直に言葉が頭に入ってくるようになったような気がしますね。特に中村捕手の場合が顕著で、逃げて逃げて逃げて打たれていたのが、今年は攻めて打たれる。これは大きな差だと思いますね。彼の成長もあって、これをきっかけにこれから数年は毎年、優勝争いに絡める気がします。

さだまさしさん

マンション住まいのジャイアンツ、長屋住まいのスワローズ

長谷川 21歳の村上選手、20歳の奥川投手という、伸びしろしかない若手選手がいて、守備の要である中村捕手が31歳、キャプテンの山田哲人選手が29歳で、これから円熟期に差し掛かります。そう考えると、黄金時代の到来も現実的ですよね。

さだ 今年は高橋奎二投手もよかったですよね。そして、原樹理投手も。原投手に関しては「遅いよ!」って言いたいぐらいだけど(笑)。奥川、高橋、原、この三人が軸となってくれれば、投手王国になっていく予感がしますね。個人的には清水昇投手を先発で見たいんですけどね。

長谷川 高津監督はしばしば「チームスワローズ」と口にします。さださんも、「ヤクルトは家族的だ」とおっしゃっていますよね。

さだ これは昔からの球団のカラーですよね。昔の日本企業のように「ずっと面倒を見よう」という温情がありますよね。マンション住まいのジャイアンツに対して、長屋住まいのスワローズという感じ。「ちょっと余分に作っちゃったから、このひじき食べない?」とか、「ちょっとお塩貸して?」っていう感じ(笑)。それはファンの人も同じじゃないのかな? 僕はヤクルトのファン気質も大好きですね。

長谷川 すごくよくわかります(笑)。さださんが考える「ヤクルトファン気質」って、具体的にはどんなものですか?

さだまさしの考える「ヤクルトファン気質」

さだ 僕は子どもの頃から野球好きだったんです。で、熱烈な長嶋(茂雄)信者でした。でも、長嶋さんがジャイアンツをクビになって以降、特定のチームのファンじゃなかったんです。そんなときに、1987(昭和62)年から、大好きだった関根潤三さんがヤクルトの監督になった。それで、「よしこのタイミングだ!」って、ヤクルトファンになりました。スワローズを応援するようになってから、自分の野球観が大きく変わったのが嬉しかったんです。

長谷川 どのように変わったんですか?

さだ 「勝つことだけがすべてじゃない」ということがわかりました。「戦いには負け方もあるんだ」ということを知りました。ちょっと、快感のある負け方があるんですよ(笑)。これはジャイアンツファンのときには絶対にあり得ない考え方でしたね。巨人は勝つことがすべてだから。きっと、この考え方は応援団長の岡田(正泰)さんの人柄が受け継がれているんでしょうね。