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僕にとってはあの1本が「救い」でした

 そして今年の6月、九州アジアリーグの「火の国サラマンダーズ」に入団。かなりの好成績を収めたのですが、後日話を聞くと、熊本での野球生活は素直に「楽しかった」と言ってました。野球ができるということに加え、結果も出ていたので、その喜びもあったのかもしれません。余談ですが、熊本では球場に行くのに1時間くらい車で走る事もあったけど、田舎の景色に癒されてぜんぜん苦にならなかったとも言っていました。思い起こすとキャンプ地の日南のことも好きだって言っていましたし、グアムの自主トレも郊外の村の小さな球場でやったり、そういう自然の多い場所を好むのも、いつでもマイペースでイライラする事なんかないテツの人間性を表していますね。

 そんな中、ついにロッテに入団。念願のNPB復帰を果たします。僕としては「やっと来たか」と思いました。しかも支配下登録期限の最終日、8月31日でしたからね。もうギリギリですよ。ただ、結局は移籍後初安打のホームラン。あの1本のみ、ロッテではわずか1安打で引退することになります。でも、僕にとってはあの1本が「救い」でした。ご褒美でもあるし希望の光でもある。なんせ、プロ野球選手としての最後のヒットがホームランだったワケですから。

 ちなみについ先日、テツが引退の報告も兼ねてスタジオに来ていろんな話をしたんですけど、さっきお話ししたトレーニング器具。じつは熊本に行く時に「最後までやり切る」って書いていて、それを見ながら「最後までどころか最後のさらに向こう側まで行ったね」ってふたりで笑ったんです。それくらい苦労して最後まで頑張りましたから。ロッテに行けたのは本当にすごいことだと思います。

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 テツは最後に「やり切ってスッキリした」と清々しい表情で言いました。それに対して「僕もお陰様でスッキリしたよ」と答えました。入団からずっと見てきて、ここまでやり切ってくれたらトレーナーとしても納得できるし、なんかもう、本当に笑顔で終わることができたんです。現役復帰を目指してチャレンジもした、ロッテに入ってカープとは違う球団も体験できた。いろんなことが良い方向に向かったのだと思います。

 そして、彼の最後の1年。もちろん自分のためでもありますが、彼の中には家族とか、親とか、お世話になった人に恩返しをして終わりたいっていうのが絶対にあったと思うんです。弟のように可愛がったテツですが、そんな彼に言葉をかけるとしたら「ありがとう」。これしか無いですね。山ほどトレーナーがいる中で、引退まで僕を選んでくれて、これほど幸せなことはないですし、トレーナー冥利に尽きます。お疲れ様でした。本当にありがとう、小窪哲也。

(※1)https://www.chugoku-np.co.jp/carp/article/article.php?comment_id=733343&comment_sub_id=0&category_id=124

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