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巨人のユニホームを着て気のないスイングで三振…中田翔が悲しくてたまらなかった

文春野球コラム 日本シリーズ2021

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中田やハルタクのファイターズが消えていく

 一年野球を見てきて、最後の最後にこんな場面を見るのかと思う。夢っていうのはこんな残酷な形で終わるのか。僕の見たものは「巨人のユニホームを着て、気のないスイングで三振する中田翔」だ。ヤクルト優勝を引き立てる「あと1人」役の打者だ。去年の秋はこの男に打点王とホームラン王、二冠を獲らせようとしゃかりきになって応援していた。結局、ホームランは1本届かなかったけど、中田翔は夢だったんだよ。

 僕は07年高校生ドラフト1位で中田の交渉権を獲得した夜のことを思い出す。親しい北海道新聞の記者から電話が入った。コメント取材だった。「大阪桐蔭・中田君獲得の受け止めをお願いします」。僕はこう言ったのだ。電話口で興奮が抑えられなかった。

「中田君を引き当てた瞬間はバンザイしました。ファイターズは前途洋々です。既にダルビッシュ有がいるんです。そこへ中田君が入ってくる。何年か後には球界を代表するエースと若き4番打者が揃うことになる。黄金時代が来ますよ」

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 あれからずいぶん遠くへ来てしまった。中田翔がチームを去り、直近の球団発表ではこのオフ、西川遥輝、大田泰示、秋吉亮をノンテンダーFA、来季の契約を提示せず、いったん市場に出すことになった。これは他球団の動き如何だが、西川らもチームを離れる可能性が高い。チームは解体されていく。中田やハルタクのファイターズが消えていく。

 思えば2016年日本一チームの解体も早かった。谷元、大野が抜け、バース、メンドーサが抜け、高梨が抜け、増井が抜け、鍵谷が抜け、陽岱鋼が抜け、大谷翔平が抜け、レアードが抜けた。今回は「ポスト2016年チーム」の解体だ。チームには新陳代謝が必要で、ひとつのところにとどまれないのだろう。わかっている。わかっている。僕は何年もずっと自分が悲しいことにフタをしてきたんだ。

 僕は「新庄ビッグボス」の新しい挑戦のために二度とこの話はしない。だけど、これは言いたい。始まる前に終わらせなきゃダメだろ? ちゃんと終わらせてないんだよ。ファンの思い出はなかったことになるのかな? みんなが球場で見た夢は一体どこへ行くのかな?

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