この「文春野球コラム 日本シリーズ2021」と同じく、昨日から幕を開けたプロ野球日本シリーズ。ともに2年連続最下位から巻き返してリーグの頂点に立ち、CSを勝ち上がってきたヤクルトとオリックスの戦いを前に、あの人に話を聞いてみたくなった。現役時代はこの両チームに所属し、現在は日本体育大学大学院でコーチング学を専攻するかたわら、同大学硬式野球部の臨時コーチを務める大引啓次氏である。
「この日が来るとは夢にも思わなかった」
「この日が来るとは夢にも思わなかったって言ったら失礼になるのかもしれないですけど、おそらく今年のペナントレースが始まる前は、この日本シリーズの顔合わせを予想した人は誰もいなかったんじゃないかなと思います。ただ、われわれが子供の頃、ちょうど小学生、中学生ぐらいの頃は、両チームとも強かったと思うので、久しぶりの顔合わせということで楽しみですね。それがたまたま、自分が在籍したチームだったかなっていう印象です。とはいえヤクルトの坂口(智隆)選手、オリックスのT-岡田選手、平野(佳寿)選手は若い頃から苦楽を共にし、一緒に戦った仲間なので、彼らの活躍は心から願っています」
オリックスではプロ入りした2007年から6年間、日本ハムへのトレードを経てFAで移籍したヤクルトでは5年間、主に遊撃手としてプレー。ヤクルト1年目の2015年にはリーグ優勝の美酒も味わった大引氏は、今シーズンの両チームの戦いをどう見ていたのか?
「MVPは高津さんと中嶋さん」
「ずっとシーズンを通して見てたわけじゃないので、そんなに偉そうなことは言えないですけど、MVPは高津(臣吾)さんと中嶋(聡)さんになるのかと思ってます。お二人の手腕、リーダーシップ、もうすべてにおいて、もし他の方が指揮を執っていたら、こういう成績にはならなかったかなという印象を受けます。両チームの監督とも選手のやる気を削ぐようなことは絶対しないと思うので、ペナントレース終盤の戦い方を見ると、そこで明暗が分かれたのかなと思います」
大引氏は現役時代、ヤクルトの高津臣吾監督とも、オリックスの中嶋聡監督とも“同じ釜の飯を食った”仲である。大引氏がヤクルトに在籍していた当時は一軍投手コーチ、二軍監督を歴任した高津監督にはどんな思い出があるのか。
高津監督は「非常に辛抱強い」
「非常に辛抱強いといいますか、『ちゃんとやれよ』って言いたい時もあったと思うんですけど、それを自分の中で噛み殺して、咀嚼して、どうすれば選手が頑張ってくれるかっていうのを考えてから発言していた印象ですね。特にピッチングコーチをされてる時は『ヤクルトのピッチャーは……』ってよく揶揄されてたと思うんですけれども、そういった中で耐えてたあの我慢強さっていうのは、こうやって一軍で指揮を執るのに生きているのかなと感じます」
ヤクルトでの最後の2年間は、故障などもあってファームで過ごすことも少なくなかった大引氏は、二軍監督に転身していた高津監督に、しばしば声をかけられたという。
「高津さんに話しかけられると、嬉しさ、やる気がみなぎってくる」
「高津さんに話しかけられると、選手としては嬉しさだったり、やる気だったりっていうのがみなぎってくる。そういったパワーの持ち主だったんじゃないでしょうか。私が二軍にいる時なんかは、どちらかというと『僕はいいので若手を使ってください』って感じになるじゃないですか? それでも『いや、出てもらわないと困る』って言ってくれるので、そういう、何かもう一回お尻に火をつけてくれるような感じがありました」