ビッグボス旋風が巻き起こっている。会う人、会う人に、楽しくなりそうだね、と言われる。その度に私はわざわざしかめっ面を施し、いやいやいやと首を振る。ビッグボスが選手にかけているプレッシャーは相当なものだ。求める基準はとても高い、それをこなしてきた人だから説得力があるし、抗うことなんてもちろん出来ない。
スターを育て、そうと思う選手が出てきたら背番号1を継承するという。「なるしかねえよ! 後継者に!」。秋季キャンプで叫んだ選手がいる。彼の名前は今川優馬、もし本当にその日が来たら、全北海道が涙する。
子供の頃から憧れたファイターズ
11月3日から沖縄県国頭村で行われた秋季キャンプ。初日から稲葉篤紀・新GMが練習に現れ熱血指導、何日かすると新庄剛志ビッグボスも合流。ボスも視察なんて軽いものではない、ジャージ姿でグラウンドへ出て練習メニューにも指示を出し、選手にも直接声をかけた。その中に今川選手ももちろんいた。
札幌出身の彼は8歳からファイターズのファンクラブ会員。選手になる前からずっとファイターズファン。新庄選手、稲葉選手が活躍した2006年の日本一の頃は9歳、子供にとっては我々が思うよりずっと大スターに見えただろう、その2人が目の前にいる。マスコミの取材に答える今川選手の声はちょっと上ずっていて、明らかに高揚していた。
2020年のドラフト6位、JFE東日本からの入団。ファイターズにとっては久しぶりの社会人野手の指名だった。出身地の札幌で大学まで過ごした彼は甲子園も経験している。2014年夏・東海大四(現・東海大札幌)高校、西嶋投手の超スローボールが話題になったあの時の3年生だ。控えの選手だったので印象は正直濃くはないが、東海大学北海道キャンパスに進んでからスラッガーとして頭角を現す。ターニングポイントになったその当時のことを今川選手に聞いたことがある。当時のコーチとこんな会話があったという。
バッティングの100点とはなんだろう?→ホームランだと思います→普通のテストで君は60点を目指しますか?→いや、それは……→100点目指すだろう? だったらやってみよう、と。そこから彼のスイングはホームランを目指すことに変わる。ホームランを狙っての打ち損じがヒット、ヒットの延長がホームランではないのだ。
結果が出始めるのは3年生から、その頃からプロ野球を意識するようになるがドラフトでは涙の指名漏れ。彼は夢を追うため故郷を離れ千葉のJFE東日本へと進んだ。1年目でレギュラーを掴み最優秀新人に贈られる若獅子賞を受賞、チームの都市対抗野球・初優勝にも大きく貢献した。大卒だから2年プレーをすればまたドラフト候補になれる。
そんな2年目に起こったパンデミック。彼は最大のアピールの場の公式戦をゼロのままドラフトを迎えた。その瞬間が来るのはドラフト開始から1時間以上経ってから。6位で指名したのは彼が子供の頃から憧れたファイターズだった。号泣だった。