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共感を集め続ける『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は何を描いているのか

CDB

2021/11/05
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海外紙も報じた悲劇

 京都アニメーション大賞の歴史で初めての大賞受賞となった『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、そのシステムの最も成功した例となった。「必死に足掻いていたら京都アニメーション様に拾って頂きました」と、原作者暁佳奈は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝』の後書きで当時を振り返る。

 原作者、スタジオ経営者、そしてアニメーターたち労働者の3つが誰も犠牲にならずに発展する、夢のモデルケースとして『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はヒットを記録し、劇場映画の製作が進んだ。

 そしてその完成の翌日に、ひとりの放火犯によってスタジオが襲撃される「京都アニメーション放火殺人事件」は起きた。

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当時のティム・クック氏の投稿

 AppleのCEOであるティム・クックはその事件が海外でも大きく報じられる最中に、Twitterに追悼文を投稿した。「京都アニメーションは、世界で最も才能のあるアニメーターや夢想家たちのホームだ。今日の壊滅的な攻撃は、日本にとどまらない悲劇だ。」という意味の英文の追悼の後には、「ご冥福をお祈りいたします」という日本語が添えられていた。

 “Tragedy in an Animation Utopia” あるアニメーションの理想郷における悲劇、と海外紙『ハリウッド・リポーター』は後に、事件についての長く詳細な英文記事をサイトに掲載している。それが第二次世界大戦以降に日本国内で起きた最悪の大量殺戮行為になったこと、日本のエンターテイメントの中心であるにもかかわらず、過酷な悪条件で「ブラック・キギョー」と呼ばれる日本のアニメーション産業の労働環境の中で、京都アニメーションが良心的な労働環境で知られていたこと、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』がNetflixで批評家の賞賛を集め、国際的に熱く支持するファンの基盤を獲得していたこと、事件の犯人が孤独で、孤立した社会的生活の中で、妄想と悪意を育ててきたこと。

 世界中から多くのメッセージが寄せられた。その日、炎の中に消えたものが1つの理念と可能性、アニメーションのユートピアであったことを、国内外多くのファンが知っていた。