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 犯行に手を染めるようになった理由として、久保木被告は岩波教授に対し、「患者の遺族から怒鳴られたことをきっかけに、自分が担当しているシフトの時に患者が死ぬのが嫌になり、犯行に手を染めるようになった。点滴に異物を混入して、自分の夜勤の時以外で患者が亡くなるように仕向けた」との趣旨の告白をしている。

 だが、岩波教授は久保木被告のこうした説明に、整合性がまったくないことに注目する。

〈遺族に怒鳴られた時期よりずっと前から点滴への異物混入を始めているなど、動機に整合性がまったくなかったのです。

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 これらの話を総合しても、久保木被告の犯行動機や内容は、納得のいく説明にはなっていません。あまりにも説明に合理性を欠いているところが、まさに統合失調症的なのです。〉

岩波明氏(昭和大学医学部精神医学講座主任教授)

「発達障害」とする検察側鑑定

 ところが検察による鑑定では久保木被告は発達障害の一種であるASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)と認定。

 これに岩波教授は疑義を唱える。

〈久保木被告の幼少期から高校までの記録を見ても、そのような痕跡は発見できませんでした。

 ASDであれば通常、行動や興味の強いこだわり、コミュニケーション障害など、なんらかの特徴が子供の頃から見られます。本人や家族の話を聞く限り、対人面での重大な障害は見られなかった。学校の成績も特別良いわけではありませんが、中位レベルを保っていました。〉

 では一体なぜ、検察側はこのような鑑定を出してきたのか?

 久保木被告の深層心理を解明すると同時に、日本の刑事司法における精神鑑定の問題点を鋭く指摘した岩波教授のインタビューは、「文藝春秋」12月号(11月10日発売)と「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

文藝春秋

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点滴不審死48人 殺人看護師の精神鑑定