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マイノリティは“お飾り”か? 車椅子の私が就職後に体験した「誰も得しない」状況がつらすぎた

2021/11/15

「トークン(お飾り)」という概念をご存じだろうか。

 筆者は『サウスパーク』というアニメで「トークン・ブラック」という名の黒人のキャラを見てこの言葉を知った。これは登場人物の大半を白人が占める映像作品への人種団体などからの批判をかわすため、申し訳程度の端役で黒人を出すことを風刺している。

トークンとして中高大を過ごしたきた筆者

 この例では人種だが、集団に多様性があるように見せる効果や目的を持つ、選別されたマイノリティを「トークンマイノリティ」「トークン」と呼ぶ(※注1)。

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 トークンについては米国で長年研究が為され、生じうる様々な摩擦、そのメカニズム、問題の構造、処方箋に至るまで多くの議論が蓄積されてきた。

 筆者は重度脳性麻痺と発達障害を持つ障害者で、中学・高校・大学・社会人の計13年以上トークンとして過ごしてきた。従って僭越ながら筆者の自分語りを通じて、トークンと多様性を巡る議論のミソを感覚的に網羅していただこうと思う。

©️iStock.com

 いつも周りは健常者のみという点は一貫していたが、彼らとの関係性、トークンとしての地位、見えた風景等々は各集団毎に全く違う。

 中高では、障害のことで差別されたりトークンであることで悩んだりした記憶が無い。筆者は勉強が得意だったので、周囲との相互作用と無関係な「試験の点数」という指標で絶えず1位を取りさえすれば、問題に全て蓋をできた。マイノリティが地位を得る上で、人の手を離れた物差しは武器になり得る。

 成績のお陰で級友もそれなりに接してくれたし、皆親切で素晴らしい人達に思えた。だがそれは互いに深く関わらなかったために汚い面を見ずに済んだだけかもしれない。

 本当に大切な情報や感情、取引は非公式の場で交わされる。皆はゲーセンに溜まって何を話していたのか。筆者はどんな形で話題に上ったのか。今となっては知る由も無い。

※注1……もちろん一口にマイノリティと言っても、属性は千差万別で、在り方も一人一人異なる。それは重々踏まえた上で、各々の差異を超えて通底する問題構造に迫るのが本稿の目的である。