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マイノリティは“お飾り”か? 車椅子の私が就職後に体験した「誰も得しない」状況がつらすぎた

2021/11/15
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マイノリティ採用、残念な状況を生まないためにできること

 ではマイノリティが組織に定着し力を発揮するための要件は何だろう。前述の研究群は、筆者のような残念なケースを防ぐのに役立つヒントも多く含んでいた。これを私見も交えつつ具体に落とし込むとすれば、以下のようになる。

 第一に、強力なメンター(指導係の上司)によるサポートである。若手にとってメンターとの関係性は運命の分かれ道だが、とりわけマイノリティが組織内で生き残るには死活問題だ。

 強い影響力を持つメンターであるほど、味方にできれば不利や困難をかなりショートカットできる。だが単に強力なら良い訳ではなく、トークンマイノリティ故の困難に対する適切な理解が求められる。

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 自分の仕事も抱えつつ、未知なる他者と手探りで関係を築くには辛抱強さも必要だ。これらは多様な部下の上に立つ人に不可欠の資質となっていくだろう。

 第二に、マイノリティへのこうしたサポートが生まれるのを運任せにしないこと。メンター個人の努力や資質に頼り切るのではなく組織としての後押しが必須だ。

 それを制度的に担保するために、例えば公式の組織を常設する。これは一見形式的だが、担当者を置き多様性の現状に責任を負う仕組みにすれば有益な作用をもたらしうる。立場の弱い者にとって、フォーマットが定められた公式な場の方が対等に本音を言えることもある。

 第三に、忍耐強く採用し続けること。トークンが1人から2人、2人から3人と絶対数が増えるほど、1人あたりにかかるストレスは減る。それをずっと継続すれば、もはやマイノリティはトークンではなくなる。そうなってからこそ、ダイバーシティのメリットが組織にもたらされる。

©️iStock.com

トークンはとにかく孤独で辛いポジション

 いずれにせよトークンはとにかく孤独で辛いポジションである。マジョリティに疎まれるだけでなく、同じ属性のマイノリティからもマジョリティの走狗として憎まれがちだ。障害者運動の人に役所への内定を伝えた時も「内部から主張し変革せよ。さもなくば公権力の手先とみなす」と強く釘を刺されたものだ。

 だが双方に言いたいのは、トークンを叩くよりも励ましてあげてほしいという事だ。結局のところ、それがマジョリティの利益にもマイノリティが望むような変化にもプラスになるからである。

【参考文献】

・JANICE D YODER(1991). RETHINKING TOKENISM: Looking Beyond Numbers, GENDER & SOCIETY, 5(2), 178-192. 
・Roger A Hart(1992). CHILDREN'S PARTICIPATION: FROM TOKENISM TO CITIZENSHIP, INNOCENTI ESSAYS, No.4.
・John T Krimmel, Paula E Gormley(2003). Tokenism and job satisfaction for policewomen, American Journal of Criminal Justice,  28(1), 73-88.
・Louise Roth(2004). The Social Psychology of Tokenism: Status and Homophily Processes on Wall Street, Sociological Perspectives, 47(2), 189-214.
・Eden B King, Michelle R Hebl, Jennifer M George, Sharon F Matusik(2010). Understanding Tokenism: Antecedents and Consequences of a Psychological Climate of Gender Inequity, 
Journal of Management, 36(2), 482-510.
・Amy J Stichman, Kimberly D Hassell, Carol A Archbold(2010). Strength in numbers? A test of Kanter's theory of tokenism, 
Journal of Criminal Justice, 38(4), 633-639. 
・Meghan S. Stroshine, Steven G. Brandl(2011). Race, Gender, and Tokenism in Policing: An Empirical Elaboration, Police Quarterly, 14(4), 344-365.

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