昔から「神経痛が始まると雨が降る」などという話をするお年寄りはたまにいた。医学的な検証がどこまでされているのかは不明だが、気圧の変化が人体に何らかの影響を持っていることは、よく話題に上がるテーマである。

 そんな中、神経痛ではなく「片頭痛」が気圧の変化に連動する、という話を耳にした。

 国内だけで推定840万人の患者がいるとされる片頭痛。その「痛み」と「気圧」をつなぐのは、大古の人間に備わっていた“ある器官”の名残だというのだが……。

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「いま、どこかで台風が発生しました」

 天気図を見ることもなく、とある患者がそう宣言。そして発言した当人は、宣言の翌日に激烈な頭痛に見舞われ、調べて見ると言った通りの時刻に、フィリピン沖の海上で台風が生まれていた――。

 神経内科や脳神経外科には、こんな不思議な現象を目の当たりにした医師が、意外に少なくないという。

 獨協医科大学副学長で脳神経内科が専門の平田幸一医師もその一人。

「片頭痛の発症因子はいくつかあります。多いのは特定の音や光、匂いなど。他にも精神的なストレスや空腹などが引き金になって片頭痛を引き起こすことも分かっています。そしてじつは、“気圧の変化”も因子の一つなのです」

「そういうものだ」となっている気圧と頭痛の関係

 気圧の変化が片頭痛の発症と何らかの関係があることは、頭痛を専門とする医師の間では昔から言われていたし、医学の教科書にも載っている。

 しかし、その関係を裏付ける研究はほとんどなく、「そういうものだ」と納得するしかなかったのだ。

 そこで平田医師は、約200人の片頭痛患者に片頭痛の発症状況を克明に記録してもらい、それを気象台の発表する気象データと照合してみた。すると、片頭痛の発症と気象の変化がリンクしている人の存在が浮かび上がってきたのだという。

「片頭痛患者のうち、およそ6割の人が何らかの形で気象条件が関与していることが分かりました。いずれも『頭痛が起きた翌日に気圧が下がる』という共通の現象が見て取れたのです」

 一歩前進した「気圧の変化と片頭痛」の関係。だが、そもそもなぜそんな現象が起きるのだろう。