「胴上げしてもらうような野球はしていない」と断固拒否
それでも、契約はまだ2年残っている。古葉監督は翌年に向けトレードの下交渉を進めるなど意欲的に動いたものの、シーズン終了間際の10月4日、チームが再び大型連敗に沈む中で突如辞意を表明する。それはシーズン中から次期監督の話題がスポーツ紙を賑わす状況でのせめてもの抵抗だったが、フロントも指揮官を守る姿勢を見せずそうした話題をマスコミにリークした節があり、事実上の解任だった。長期的にチームを任せたはずの古葉監督すらも3年で首をすげ替えた球団を、地元の神奈川新聞は翌日の紙面で【無為無策な球団経営】と痛烈に批判した。
10月18日のシーズン最終戦を勝利で飾った大洋ナインは、この日限りでチームを去る指揮官を胴上げしようとした。しかし古葉監督は申し出を断固拒否。「胴上げしてもらうような野球はしていない。あれは勝ってからするもんだ」とのコメントには、名将と呼ばれた男の強いプライドが滲み出ていた。そして、その悲しいシーンを目の当たりにした勝つことを知らない大洋ファンは、最後の最後に古葉さんの教えを脳裏に刻むこととなったのである。
古葉さんが残したものが花開き…98年、ベイスターズ優勝
後年、古葉さんは「チームを変えるにはやはり5年は必要だと痛感しました」と語っている。志半ばでの辞任は無念だったはずだし、大洋での3年間にいい思い出はなかったかもしれない。しかしこの間、古葉さんの誘いで広島から大洋に移った名スカウト・木庭教さんのもと後の主力選手となる盛田幸妃に進藤達哉、野村弘樹、谷繁元信、井上純、石井琢朗らが入団している。それまでなかなか新人が育たなかった大洋においてこの時期のスカウティングは大成功であり、木庭さん、ひいては古葉さんの存在なしにその後のベイスターズの躍進はあり得なかった。38年という長い長い歳月を経て優勝を勝ち取ったあの98年10月8日は、古葉さんがチームに残したものがようやく花開いた日でもあったのだ。
古葉竹識さんのご冥福をお祈りいたします。