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スラム化が促進するアパートの“空室”問題 それでも郊外のアパートが増え続けるのはなぜか

国内の住宅の7~8軒に1軒が空き家の状態に

2021/11/30
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高齢の地主がアパートを建設する理由

 この背景には、高齢化した地主の相続対策がある。土地を多く所有している大都市圏郊外の地主や都市農家の多くが高齢化と事業承継の問題を抱えている。都市農家においては、農業をやめてしまうと農地は宅地として高額の固定資産税が課される。いっぽうで農家の息子や娘は、多くがサラリーマンになっていて農業を継ぐ意思はない。放置しておいて相続しようものなら多額の相続税が発生してしまう。彼らの多くは現金収入が豊かにあるわけではないため、金融資産は少ない。これでは税金を納めようがないのだ。

 ということでアパート建設によって節税をしてこの問題を回避しようということになる。相続の場合、土地は路線価評価、建物は固定資産税評価となることから、アパートを建設することで、相続評価額は時価よりもかなり低く評価される。さらにアパート建設に伴う借入金は、相続財産評価額から直接控除できるために相続税を圧縮する有効な手段となっているのである。

実需が欠落した発想

 この発想には実需という観点がものの見事に欠落している。投資をして賃貸用不動産を所有するということは、当然のことながらこれを運用していかなければならない。運用のノウハウもない多くの地主の不安に対して、アパート会社は賃料保証を謳い、アパート建設のメリットを強調してきたが、保証期間の短さ(約10年程度)、中途での保証料下げ、保証継続にあたってのリニューアル工事の自社への発注等の確約など過酷な条件が、一部で社会問題となっている。

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 同じ地域、エリアにおいて複数のアパート会社の営業マンが複数の地主に対して同じような勧誘をする結果、短期間で多くの、同じような規格のアパートが建設される。そして、多くのニーズはなさそうな郊外エリアにアパートが林立することになる。あたりまえだが競合条件は厳しくなる。新築アパートが建ち上がると、既存のアパートの住民が引っこ抜かれて、既存アパートには空室が大量に発生する構造が全国のいたるところで生まれている。