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作家、編集者がホンネで語る「ミステリ新人賞」への第一歩――オンライン講座の一部を特別公開!

作家、編集者がホンネで語る「ミステリ新人賞」への第一歩――オンライン講座の一部を特別公開!

オール讀物創刊90周年特別企画「ミステリの書き方」講座

note

Q7  特殊設定ものって書いてもOK?

新井 最近、探偵自身が特殊な能力を持っていたり、現代の日本とは違った特殊な世界を舞台にして本格ミステリを作るタイプの作品が人気ですよね。

円居 かつて京大ミステリ研の悪い先輩――意地悪だけど目の確かな先輩が、有名な古典的特殊設定ミステリを評して「よくできてるけど、特殊設定が入っている時点でそれを使ってどうにか解決するんだろうと思っちゃうから、80点がマックスになる」と語っていたんです。それを聞いて、僕自身が特殊設定を入れる時、「本当にこの作品に特殊設定が必要か」と何度も考えるようになりましたね。最初から読者の採点基準を上げたくないので、なるたけ特殊設定を用いずに同じ驚きを作れないかと考えます。ただ、面白いもので、世の中には特殊設定が入っているだけで加点30点というファンもいるんですね。

新井 そもそも特殊設定ジャンルが好きな人がいる。

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円居 なので、読者の好みもあるし、世間の流行り、自分の嗜好も当然あるでしょうから、それらを踏まえた上で、書き手自身で選択するべき問題かなと。

新井 僕も特殊設定ミステリを読む時は、この設定をどううまく使って謎解きするのかなとまず期待するので、設定がうまく使われていさえすれば「ナイス!」と思うし、「特殊設定、意味ないじゃん」と思うと、評価は下がります。現実世界でも可能な話だったら「この設定は何だったの?」とがっかりするので。

円居 特殊設定ミステリが悪いわけじゃないけど、特殊設定を入れることが目的化するとまずいよ、という話ですね。

 

Q8  トリックに再現性は必要?

円居 新人賞の応募作について「100パーセント再現可能なトリックじゃないと使っちゃダメなのか」という趣旨の質問だと思うんですけど、どうですか。

新井 (きっぱりと)そんなことはないです。

円居 誰も再現実験なんてできないですもんね(笑)。

新井 これは作品内のリアリティの問題で、読んでいて納得できればそれでいいです。逆に、どんなに現実的に再現可能なトリックでも、読んでる人に「そんなことある?」と思われたらダメですね。

Q9  改稿、推敲のやりかたを教えて!

新井 新人賞に応募する時って、締切ぎりぎりまで粘って原稿を書くことが多いんじゃないかと思います。でも、ぎりぎりまで頑張るのは「執筆」ではなく、「改稿」と「推敲」であってほしい。早めに原稿を仕上げた上で、まずは少し時間をおいて、頭を冷やしたのちに読み返す。もう1つは、友達や家族、誰でもいいので忌憚のない意見を言ってくれる第三者に読んでもらってほしいですね。他人の目が入ると、自分では思いもよらないところが「伝わっていない」とわかるものです。「つまらない」「面白くなかった」と、腹の立つことを言われたとしても、それは自分が未熟だったんだなと真摯に受け止め、譲れない箇所はもちろんそのままでいいので、「なるほど」と感じたところを直すだけでも、原稿は見違えるほどよくなります。

 本人に許可を取ったので実名を出しますけど、『オーデュボンの祈り』(新潮文庫)でデビューした伊坂幸太郎さんは、「この作品で駄目だったら新人賞を目指すのはやめよう」という覚悟で、原稿を書き上げたのち、改稿と推敲に1年間かけて応募したそうです。

 いまはワープロソフトの校正機能もあるので、チェックのついた誤字、誤表現くらいは直して応募してほしい。誤字があまりに多い原稿を読むと、「この人ちゃんと読み直してるのかな」「自分の原稿に愛はないのかな」など、マイナスの方向に考えてしまいます。

円居 新井さんの話を聞くと思い当たる節がたくさんあって(笑)。学生時代、4~5本、新人賞に応募したんですけど、1つも一次選考より先に進めなかった。いま思えば、締切当日に書きあげてそのまま郵便局に持っていったのがいけなかったですね(苦笑)。

Q10  結局、何を読めばいいの?

円居 「この1冊を読めばトリック、プロット、キャラクター、すべてが勉強できるような本はありませんか」という質問も来てるんですけど(笑)。

新井 ありません(笑)。自分の本の宣伝めいて恐縮ですが、『書きたい人のためのミステリ入門』(新潮新書)には100作品くらい名作を紹介していますので、面白そうなものから実作に当たっていただけたらと思います。文春にも『東西ミステリーベスト100』(文春文庫)という良いガイドがありますね。あれに出てくる本を全部読んだらすごいと思いますけど、全部読んだら書けるのかといったらそうでもないところが難しい……。

円居 冒頭にも申し上げたように、数は大事だけれど、漫然と数を読めばいいというものでもない。自分が小説を書くようになると、ミステリの読み方が変わるんです。「ここはうまく書いてるな」とか「この書き方は自分にはできない」というのがわかって、どうやって真似ようかとか、自分ならどう処理するか等、考えながら読むようになる。考えながら読んだ1冊って、ぼんやり読んだ10冊20冊に匹敵するんですよ。

新井 「王道は遠く遥かな道ですが、一番遠くに行けるのも王道」ということですね。

円居 ミステリ研の先輩の作家先生は、定期的にローテーションして昔の古典を再読してるそうなんです。「いま何読んでるんですか?」と聞いたら「カーを読んでる」って。おそらくもう何十回と読んでるはずだけど、いまだに「発見があって面白い」と。それを10年、20年単位でやってるんだから、ミステリ研の先輩は恐ろしいですよ。

「オール讀物」2021年11月号より/写真:原田達夫)


※誌面で紹介しきれなかったマル秘テクニック、活字にできない面白エピソードの数々は、2時間ノーカットのアーカイブ動画(Peatixにて3300円で好評販売中)でご視聴いただけます。

京都大学推理小説研究会直伝「ミステリの書き方」講座
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