多数の作家を輩出する大学サークル「京都大学推理小説研究会」。作家、円居挽(まどい・ばん)さんと編集者の新井久幸さんは、ともに同サークル出身で、ミステリ界の“虎の穴”で研鑽を積んだ先輩後輩どうし。そんなお二人が、9月11日に行われたイベント「京都大学推理小説研究会直伝『ミステリの書き方』講座」で、作家志望者から寄せられた質問の数々にホンネで答えました。
◆◆◆
Q1 ミステリの「型」とは?
円居 ミステリはジャンル小説なので、固有の「型」が何個かあるんです。「孤島に集められた人が1人ずつ殺される」みたいな定番の「型」を自分なりに理解してアレンジしていくだけで、それらしいものが書けてしまう。だから、一般小説は難しいけど「ミステリなら書ける」ということが普通に起こりえます。
もし漠然と書いて結果が出なくて悩んでいるとか、何を書いていいかわからないという人は、ミステリジャンルの中で、自分が勝負できそうな「型」を見つけ、そこを極めていくのが近道じゃないかなと思いますね。
新井 具体的に、どう「型」を勉強すればいいんですか?
円居 王道ですけど、やはりまず先人の作品を読むこと、ですかね。
新井 読み方の注意点はあります?
円居 漫然と冊数を重ねることを目的にしてはダメで、考えながら読んでほしい。書き手の目線で言うと、ミステリってトリックも大事だけど、それ以上に伏線の置き方とか回収の仕方が重要で、技術力が問われるところなんです。真相を知った上でもう1回読む。すると「あ、ここでこんなテクニックを使っている」とわかってきたりします。
新井 まず1回目の読書でネタを知った上で、今度は「そのアイデアをどうふくらませて面白いミステリに仕立てているか」を、具体例を通して学ぼうということですね。円居さんの言っている伏線の話は、いわゆる「美しいロジック」とか「エレガントな解決」に関わる部分だと思います。トリックが読者を驚かせる要素だとすれば、手がかりから解決を導くロジックは、読者を感心させる要素。どちらもミステリを書く上で、とても大事な技術ですよね。
円居 昔、よくトリックだけを集めたアンチョコ本が出てたじゃないですか。あれでミステリに入門してしまうと、「ミステリ=トリック」と思ってしまいがちです。でも、トリックを先に知って後で原典に当たると「こんなに面白かったの?」とビックリすることがあって、「トリックがしょぼくてもすごいミステリ」ってざらにあるんです。トリックだけ知って、ミステリの「型」がわかったと思うのは危険ですね。
Q2 アイデアはどう見つける?
円居 僕の場合、ネタに詰まると普段よく目にするものからアイデアを拾います。Twitterでもテレビでも何でもいいんですけど、「何か使えないかな」と常に考えながら見ています。
新井 どういうものだと「使える」んでしょう?
円居 ケースバイケースですけど、「これは令和3年のいまだから出てきたものだな」的要素を見つけると、それを入れることで古典的なトリックを刷新できるかも、とは考えますね。まあ「これ使えそう、あれ使えそう」と、ふだんからストックしておいて、目の前の原稿に入れられそうなものがあったらラッキーぐらいの気持ちでいます。
新井 僕が担当していたある作家は、かつて何でもいいから1日1個、ネタになりそうなことをメモしていたと言っていました。デビューしてかなり長い間、毎日続けていたらしいです。で、困った時に昔のノートを見返すと、1個か2個使えそうなアイデアが見つかる。それを組み合わせて短編が書けることもあるので、昔の自分に「ありがとう」と思うこともある、と。
Q3 魅力的なキャラの作り方は?
円居 ミステリだと名探偵とワトソン役のバディを作るのが1つの基本型ですけど、週刊漫画誌の編集者に言わせると、2人組のキャラは「話が転がしにくい」そうです。そこに第三者を入れてようやく話を動かすことができると言われて「そうか!」と感心したことがあります。ミステリの古典的キャラ設定って、フェアな記述ができるかどうか等、ドラマツルギーとは別の観点を優先してできてたりするんで、最近は、名探偵と助手という定型を何の疑いもなく使うのではなく、ちゃんとドラマを駆動できるキャラメイクをしなきゃと考えています。
新井 たしかにキャラクター作りの方法論には定石みたいなものがあって、漫画やドラマの現場の方が研究が進んでいる面もありますね。他分野のメソッドを勉強するのも役に立つかもしれません。