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落合さんの取材は、1人で行くのがルール

佐々木 落合さんが“個”を尖らせて大事にする人なだけに、この本には個を問われるシーンがすごく多いですね。取材に関しても「1人で来た記者には話してやる」という主義だから、こちらも個を出さないと対等に向き合えないという意識はありましたか。

鈴木 落合さんの取材は、1人で行くのがルールなんです。すると肩書が何であれ応じてくれて、自分しか知らない言葉がもらえるので、記事を書けます。最初は怖くて仕方なかったんですけど、恐怖や緊張と引き換えに得るものがあるとわかってから、だんだん快感になっていきました。

©️文藝春秋

佐々木 番記者同士を競争させよう、ということなんでしょうね。記者の力量に応じて、話す内容も変えているんでしょうか。

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鈴木 そうかもしれません。佐々木さんの『起業のすすめ』に「サラリーマンというアヘン」という言葉が出てきて、当時感じていたことをすごく明確に言語化されていると思いました。番記者は、球団からの発表をそのまま書くのが仕事の基本です。集団の中にいれば何となく記事は書けますし、新聞社の社員という身分でいられるわけです。「ああ、あれがアヘンだったのか」と気付いたんですよ。落合さんは選手はもちろん、我々担当記者にも起業家精神を喚起していたのかもしれません。1人で来いというのは、集団から引きはがすことですから。

自分が合わないと思ったら会社を辞めてかまわない

佐々木 鈴木さんが会社を辞めようと思われたのは、なぜですか。

鈴木 記者は誰よりも早くニュースを取ってくることを求められますが、僕は一次情報にたどり着くまでのプロセスが楽しかったんです。たとえば、新幹線の発車のベルが鳴っても落合さんは決して走らないとか、自分が面白いと思ったことが、新聞には書けません。特落ち(複数の社が報じた大ニュースを掲載し損ねること)も多かったし、向いてなかったということです。

佐々木 新聞記者って短距離走ですもんね。

鈴木 佐々木さんは、なぜ会社をお辞めになったんですか。本の中では、知人の方から「起業が向いていると思うよ」と勧められたと書かれていましたが、その方は、どういうところが向いていると言ったんですか。

©️文藝春秋

佐々木 飽きっぽいところだと思いますね。いろいろなことを次々やりたがるタイプで、誰かの言うことを聞くより自分で作っていくほうが好きなんです。東洋経済オンラインやNewsPicksの創刊編集長として、デジタル空間でコンテンツをうまく再生産していくことはある程度できました。しかしこの波をもっと大きくするには、お金を集めたり経営に関わったりしないと限界があるなと思ったんです。決め手は、自分が扱える部分の最終的な大きさ、ですね。

鈴木 自分が合わないと思ったら会社を辞めてかまわないし、上司が「この部下はこの組織に合わない」と判断したら「君、よそへ行ったほうがいいよ」と勧めていいんですよね。それで思い出したんですけど、落合さんが鉄平という外野手を金銭トレードに出したんです。