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「こうするしかなかったんだってね…」“自殺”したはずの妻を“殺した”容疑で刑務所へ送られた男性が明かす“異常な裁判”の実態

『インド残酷物語 世界一たくましい民』より#2

2021/12/05
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ただのドライバーから「相棒」に

 スレーシュほどそのことをよく知っている人はいないかもしれない。インフォーマルな関係こそが財産であることをよく認識し、誰とそのような関係を築いていくか、冗談ばかり言う明るい性格の下で冷静な計算をしている。彼はベンガルール市で「タタ・インスティテュート」と呼ばれ親しまれている超エリート校、インド理科大学院(IISc:Indian Institute of Science)の教授たちからよく仕事を受けていた。そのため家賃が少々高くとも、IIScのそばにあえて住むようにしていた。私がスレーシュを紹介されたのも、IIScの敷地内にある国立高等研究所(NIAS:National Institute of Advanced Studies)の教授を通じてであった。

 ヒンドゥー僧院とその長であるグルのフィールド調査に出かけるたびに、私はスレーシュをドライバーとして指名するようになり、すぐに直接彼と契約するようになった。彼は安全運転を徹底する優秀なドライバーであるばかりでなく、どこへ行ってもすぐ友達を作り、打ち解ける明るい性格の持ち主であった。私は彼のこの性格にずいぶんと助けられている。彼はすぐに私の調査内容を理解すると、私がインタビューを行っている際に、他の村人と話をしたり、グルのドライバーと仲良くなったりして、私が聞けなかった「裏話」をよく仕入れてくれた。私が建前の話だけを聞いてそれをすっかり信じていたりすると、後からそっと「マダム、実は僕が聞いたところによると」と私の間違いを指摘してくれる。今やスレーシュなしではフィールド調査を行うのが難しいほど、我々はチームのようになった。もはや私にとってスレーシュは単なるドライバーではなく、仕事の相棒なのである。

【前編を読む】《20年以上前から指摘されている衝撃的事態》世界中で毎年「1億人以上」の女性が消えている“恐るべき現実”を知っていますか?

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