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個人的な信頼関係が何よりも大切

 彼が刑務所に行く羽目になった話を聞きながら、私は彼の正直さに驚いていた。いや正直さ以上に、インド社会の理不尽さを冷静に理解し受け入れた上で、自らの生活を向上させることに真正面から立ち向かう潔さに感心していた。最終的に罪に問われなかったとはいえ、逮捕され刑務所に入っていたことを顧客に話すことは、その顧客を失いかねないリスクを背負う。しかし正直に話せば、より強固な信頼関係をその顧客と結べるかもしれない。

 スレーシュのようにタクシー会社から仕事を請け負っているドライバーにとって、顧客との信頼関係は重要である。インドのタクシーは、車はタクシー会社が所有している場合もあれば、ドライバーの持ち物である場合もある。いずれにせよ、客側はどういうタイプの車がいいか、何日(あるいは何時間)必要かを会社に伝え、会社はそれに合った車とドライバーを手配する。料金は距離と車のランクによって決められていて、それは会社が違ってもほとんど変わらない。このようなシステムにおいては、ドライバーは顧客に気に入られれば、次もあのドライバーで、とご指名が入るし、あわよくばタクシー会社を通さず直接仕事が入ってくるかもしれない。そうすればタクシー会社が天引きするコミッション(手数料)を自分のポケットに入れることができる。

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 顧客との信頼関係は、仕事を確保することだけにとどまらない。後述するように顧客は、誰かを紹介してもらったり必要な時に借金をお願いしたり、さまざまなサポートを得る後ろ盾となりうる。国家による社会保障がほとんどないインドにおいて、こうした個人的な信頼に基づいた関係性は何にもまして重要である。