昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「梨本宮伊都子妃が娘の嫁ぎ先を早く決めねばと焦ったのもよく分かる」 林真理子がふりかえる“皇族の縁談”と“身分制”

林真理子×磯田道史 #1

source : オール讀物

genre : エンタメ, 読書, 歴史, 社会, 国際

 韓国併合後の日本の皇族と朝鮮の王太子との縁談を描いた、林真理子さんの新刊『李王家の縁談』

 明治時代に旧佐賀藩藩主、鍋島直大(なおひろ)の娘として生まれ、19歳で梨本宮守正(もりまさ)王に嫁いだ伊都子(いつこ)は、長女・方子(まさこ)を朝鮮王家に、次女・規子(のりこ)を伯爵家に嫁がせるなど、家柄を重んじた縁談を次々に進め国に尽くした。本作では、彼女の日記を紐解きながら、大韓帝国最後の皇太子・李垠(イウン)と方子の縁談を中心に、大正から戦後までの激動の時代が描かれていく。

 昨年ご結婚された、小室圭さん、眞子さんのように、「やんごとなき」方々の縁談は世間の注目を集めてきた。歴史家の磯田道史さんと、著者の林真理子さんに話を聞いた。(全3回の1回目。#2#3を読む。初出:オール讀物2021年12月号。年齢、肩書等は掲載時のまま)

◆◆◆

かつてない皇族・華族の内部に踏み込んだ小説

 昨年来、秋篠宮家の長女・眞子内親王(当時)と小室圭さんとのご結婚の話題で持ちきりでしたけど、今度の作品は、それに便乗して書いたわけではもちろんないんですよ(笑)。

磯田 ここまで皇族や華族の頭の中に踏み込んで描ききった小説を、僕は読んだことがないので、すごく興奮しました。たとえば、林さんはこれまでも、作品の中で同族経営者やセレブ女優の内面を追求されていますが、いずれも実際にインタビューが可能な相手です。しかし、今回は情報の少ない、閉ざされた空間で生きた人々の価値観が克明にリアルに描写されていて、歴史家から見ても本当に大きな驚きを覚えました。

2021年11月26日に結婚会見を行った小室圭さんと眞子さん

 私はある意味で、皇族華族フェチなところがありまして(笑)、昔から色々と本や資料を読んでいたんです。とはいえ、ノンフィクションではなく、フィクションとして描くのは大変でしたね。身分の高い方々は、私たち一般人とは全く異なる価値観のなかで生きていますから、その独特な感情を想像するのが難しい。ただ、今回は梨本宮妃伊都子さんの日記をまとめた『梨本宮伊都子妃の日記―皇族妃の見た明治・大正・昭和』(小田部雄次著)がありましたので、その資料を非常に参考にさせていただきました。

林真理子著『李王家の縁談』

磯田 父である鍋島直大侯が、イタリア特命全権大使としてローマに駐在していたときに生まれたことから、「伊都子」と名づけられたというエピソードが、小説の冒頭に書かれていますが、鍋島家が藩主を務めた佐賀藩は、先祖代々進取の気風に富んでいて、祖父の直正(閑叟・かんそう)は日本で初めて天然痘のワクチン接種を導入したり、いち早く西洋の軍事技術の導入に励んでアームストロング砲を装備した人物です。その気風が伊都子にも受け継がれたのか、美しいだけではなく、非常に聡明だったことが、彼女の日記の叙述から分かります。

 伊都子の頭の中の論理の構築を追うと、当時の世界状況も浮かぶ。江戸時代まで日本以外、東アジア諸国は、中国中心の冊封・朝貢外交のなかにいました。ところが、日本が先に西洋化し近隣諸国に砲艦外交を始めて琉球・朝鮮を従え、力関係が変わった。伊都子がその世界史的状況下で縁談を進める。歴史の授業の教科書に使いたいくらいでした。