岸田内閣が打ち出したビジョン「新しい資本主義」。その中身を議論する有識者会議の中心メンバーで、首相のブレーンと目される渋沢栄一の玄孫(孫の孫)、渋澤健氏が月刊「文藝春秋」1月号(12月10日発売)で、自身の考える「新しい資本主義」について語った。

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 渋澤氏は「これまでの資本主義は利益重視」と指摘し、「新しい資本主義」とは、「〈成長〉の果実を社会へ広く〈分配〉して、人間の能力向上につなげ、さらなる成長を目指すもの」と語る。

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渋澤健氏

 まさに岸田首相が口にする「成長と分配の好循環」の実現を目指すのが、「新しい資本主義」だという。

「いま私たちは重要な時代の節目に立っており、従来の資本主義は今後、通用しなくなります。これからの時代は『新しい資本主義』が必要なのです」

 こうした渋澤氏の考えの背景にあるのが渋沢栄一の思想だ。

 渋澤氏の祖父は栄一の孫。戦中には日銀総裁、戦後は大蔵大臣を務めた渋沢敬三の弟だ。一族が集まると、栄一の遺した家訓の話になることもあったという。

「経営者一人がいかに大富豪になっても、そのために社会の多数が貧困に陥るようなことでは、その幸福は継続されない」

 渋澤健氏は今回のインタビューで、栄一の著書『論語と算盤』の一節を紹介したが、じつはこの言葉、4年前、首相になる前の岸田氏に渋澤氏が説いたものでもある。

渋沢栄一

 栄一が理想とした社会は、一部の人間が資産を蓄えるのではなく、みんなが豊かになる社会だ。「しかし……」と渋澤氏は続ける。

「それは結果平等を意味しません。栄一は〈富の平均的分配は空想だ〉と明言しています」

 では、栄一はどんな社会を思い描いていたのか。

「栄一が追い求めたのは機会平等です。どのような身分でも能力を発揮すれば道が開けるような社会を目指した。〈親ガチャ〉に外れても、能力さえあれば成功できる社会です」