先日「紅白歌合戦」2年連続落選が報じられたAKB48。そもそも、なぜ彼女たちは2010年代の象徴になりえたのか。
小説や漫画、ドラマ、映画、アイドルに描かれる「ヒロイン」を読み解き、今の世の中を考察する『女の子の謎を解く』(笠間書院)の一部を編集・抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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AKBがトップに君臨した2010年、同時に起こっていたこと
ところであなたは2010年代の幕開け、ベストセラーになった本を覚えているだろうか。
岩崎夏海の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』 だ。AKB48の前田敦子主演で映画化もされている。2009年の暮れに発売され、2010年のベストセラーになった。
そして同じく2010年のオリコンCDシングル年間売り上げランキング1位はAKB48の『Beginner』、2位は『ヘビーローテーション』、3、4位が嵐で、5位が『ポニーテールとシュシュ』である。
名実ともにAKB48がトップアイドルになった2010年。ベストセラーになった本は、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』だった。しかしこの本をあらためて読んでみると、大変ネオリベ的なのである。
野球部は企業ではないのだが…
弱小野球部のマネージャーになった女子高生が、ドラッカーの『マネジメント』を読み、企業のマネジメント制度を野球部に使用することで勝利へと導く物語。そこにはたとえば「野球部にとっての顧客って誰なのかな?」「観客じゃないかな」なんて会話が登場する。「マネージャーは顧客や従業員のニーズをくみとって、組織の目的を定めなきゃ」と、主人公の女子高生みなみちゃんはマーケティングを学ぶ。
しかし冷静に立ち止まると、野球部は企業ではない。野球部は、当然だが企業のように、誰かに価値を提供するための組織ではない。学生が野球をするための場だ。だけど本書はそこに、強引に「価値を提供する相手」を登場させる。そして読者に「なるほど、じゃあ今の自分にとっての顧客って誰だろう」と考えさせる。
新自由主義、ネオリベラリズムの特徴は、私たちを一人残らず、市場に引きずり込むことだ。誰もが競争社会の一員で、本当は競争しなくていいはずの場所ですら、すなわち福祉が守る場所ですら、競争させられる。そして生き残るための努力をしなければ生き残れない、というシステムに巻き込む。