「顧客」に応え続けるAKB48の少女たち
野球部が無理に「顧客」を設定したように、私たちもまた、必要以上に「顧客」を設定させられる。本書が2010年に流行したのは、そんな「ふつうの女子高生も、あなたも、みんなマーケティングを学んで、市場に適応していきましょうね!」という空気をうまく汲んだからではないだろうか。
そしてこのいかにもネオリベ的物語の映画化にAKB48がキャスティングされたのは、決して偶然ではないと思う。ちょっとださい言い方になってしまうが、AKB48は、「新自由主義のなかで誕生したアイドル」だからだ。
モーニング娘。や松田聖子や山口百恵といったアイドルたちとは違う、AKB48の大きな特徴といえば「大勢の女の子を集めて、競争させる」というフォーマットだ。
想像以上に、AKB48のメンバーは「市場のニーズを汲んで自分で自分をプロデュースすること」を求められる。大人がキャラを作って、それに則った発言をするようなアイドルではない。自分で自分を売り出すアイドルだ。そしてその結果が、ファンの握手会や総選挙といった「市場」の売り上げに反映される。
SNSも本格的に流行り始めた時代だったため、AKB48のメンバーは、今でいうインフルエンサーの先駆けのような、SNSやブログを使ってファンを自分で増やすアイドルでもあった。
過酷なステージ裏をうつすドキュメンタリーも人気に
たとえばAKB48のメンバーは人数が多いため、歌番組などでもほとんど自分でメイクをするらしい。韓国のアイドルは髪型までプロデューサーが決めるという話を聞くが、AKB48は自分で本番のメイクまでする。
握手会の券を買ってもらい総選挙でどうやって得票するか自分で考え、そして順位をつけられることに傷つきながら、それでも自分の夢を追いかける。いかにも新自由主義的な競争社会で生きる少女たち。それがAKB48のコンセプトだった。
総選挙のスピーチも朝の情報番組で放映されたり、過酷なステージ裏がうつされたドキュメンタリー映画が話題となったりと、絶え間ない競争社会できりきりと踊る少女たちの姿はたしかに人気を博した。
『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』は、そんな彼女たちの姿がこれでもかと詰め込まれたドキュメンタリー映画であり、見るとその競争のあり方に彼女たち自身、自覚的であったことが分かる。