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紀子さまの父が求めた「対等な結婚」

 正論だ。だが、正論すぎて、このときの私は、これが本当に父親としての素直な気持ちなのか、はかりかねていた。だからしつこく聴いており、たくさんのメモが、取材ノートに残っている。

 宮さまとの結婚を決めるにあたって、父は娘にこう助言したという。

「もし宮さまが皇室のメンバーであるということに、何がしかの影響を受けて、彼と結婚したいと思っているのなら、僕は、考え直した方がいいと思う。でも、人間として、パートナーとして、素晴らしい方だという考えから結婚したいと思っているのであれば、ぼくは君の判断を尊重する」と。

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1989年9月12日、記者会見を終えた礼宮さまと川嶋紀子さん(当時) ©JMPA

 ただの一人の人間として、礼宮さまは、どういう人なのか。紀子さまは、パートナーとして、礼宮さまをどう思っているのか。

 同じ地平に立った対等な人間としての判断を、父は娘に求めていた。

 皇室の一員だろうが、タイの山奥で暮らす少数民族であろうが、意思のある人間は、みな対等で、尊い。当たり前の、だが、断固とした人権感覚。その後、私は、後述するタイ山村での川嶋さんのボランティア活動などを通じ、川嶋さんのこうした信念に何度も触れた。

タイでの活動に同行した筆者(右)と川嶋辰彦さん ©斎藤智子

 長い時間をかけて、私は、娘を皇室へと送り出した時の父親の言葉が、川嶋辰彦という人の本質であったと得心がいったのだった。

 こう書くと、なんだか理屈の勝った、お堅い人権派に見えるかもしれない。川嶋さんは、そうした強い信念を、ユーモアと、温かな情にくるんだ人だった。