桐谷健太が語る「誰ひとり無駄じゃない」というセリフの意味
板尾監督は「答えのない世界に飛び込む葛藤や不安まで描ければ、漫才師だけじゃなく全ての人にかかわる話になっていくんじゃないか」と自作を語る。
神谷を演じた桐谷健太も、役者という答えのない世界に夢をもってやってきた。18のとき、大阪から上京し、大学にいきながら養成所で演技を学ぶのである。しかしオーディションに通うもなかなかうまくは行かず、「みんなこうやって実家へ帰っていくのかな」と思いもしたと「ドキュメント 男の肖像」で振り返っている。
劇中、神谷は「誰ひとり無駄じゃない」と徳永に話しかける。《夢に破れ憧れの世界から退いていく者に対して捧げられる言葉》である。
このセリフについて桐谷は語る。「あれは芸人だけでなく、かつて夢を目指した人みんなに言ってる気がするんです。でっかい花火を夜空に咲かせられる人もいれば、ちらっと一瞬だけ火花を上げて終わる人もいる。でもすべてはその火花から始まってるんだって」
芸人から俳優になった三浦誠己、将棋から映画の道へ転じた豊田利晃
そういえば桐谷の元相方を演じたのは、芸人から俳優に転じた三浦誠己である。三浦は才能と情熱の欠如から芸人を辞めると決意する。次に何をやろうかと思った時に、映画の話が来る。そして芸人を辞めた後、その映画を見た者から別の仕事が来たという。(注) その映画とは『青い春』、本作の脚本(共同)の豊田利晃が監督する映画ではなかったか。豊田もプロの棋士を目指し、将棋の奨励会に所属していたが、その道を絶ち、映画の世界に来たのであった。
予告編でも使われる、漫才の魅力を説くセリフ「この壮大な大会には勝ち負けがちゃんとある。だからオモロイんや」。答えはなくとも勝ち負けはある。そうであるがゆえに切りがないほど悩みもするし、自分で自分を見限りもする。
なるほど漫才師だけでなく全ての人にかかわる話だ。
(注)「三浦誠己、千原ジュニア慕う"鬼軍曹"の過去 - お笑い芸人から俳優への転身秘話『本質と才能と情熱』」
火花
監督 板尾創路
原作 又吉直樹
出演 菅田将暉、桐谷健太、木村文乃