文春オンライン

「正直言うと毎日、辛かった。でも…」ロッテ・鳥谷敬、18年に及ぶ現役生活の終わりに語ったこと

文春野球コラム ウィンターリーグ2021

2021/12/18
note

タイガース時代からクールを貫いた理由

 つねにクールに振舞った現役生活だった。華やかなプロ野球での経歴において派手なポーズを見せたことは数度しかない。「ボクだって本当だったらガッツポーズをしたいと思うことぐらいありましたよ。ただ、まだ試合が決まっていない場面でするのはどうかなといつも思っていた。相手がそれを見て奮起する可能性はある。試合は最後の最後まで分からないわけだから」とクールを貫いた理由の一端を説明した。

 実績を重ね、タイガースのチームリーダーになりキャプテンマークも付けた。アマチュア時代にキャプテン経験のない鳥谷は自分のポリシーを貫いた。

「出来ることはどんな状況でも試合に出るという姿を見せることかなと思っていました。背中で見せるというか、自分はしっかりとした姿勢を見せれたらと思いました」と鳥谷は振り返る。

ADVERTISEMENT

 ルーティンはナイターでも朝早く球場入りをしてランニングをすることだった。グラウンドを走ることもあれば、スタンドや球場内コンコースを走ることもあった。体調管理の一環として行ってきたことではあるが、いつも大事なことに気付ける大切な時間にもなっていた。

「朝、ランニングをしているとグラウンドの整備をして準備をしてくれていたり、スタンドでごみを拾ってくれたり、掃除をしてくれている人がいる。そういう光景を目にしてボクはこういう人たちの支えの中で成り立っているのだなあと感じることが出来ました。そういう人たちの想いを背負ってプレーをしないといけないと思うことが出来たのです」

 グラウンド整備スタッフ、清掃スタッフはナイター翌日でも朝から活動をし、準備を重ねている。人に見られない時間帯には来場する人の事、プレーをする人の事を思って地道に業務を遂行している姿がいつもあった。走っていると不思議な力が湧いてくるのを感じていた。

「そういう人たちの事を考えると疲れているとか、調子が悪いとか言って、逃げ出すことは出来ないですよね。どんな状況でもベストを尽くしてやっていくだけ。いつもそういう気持ちにさせていただいていました」と鳥谷。

 現役を引退した今ではもうグラウンドを走ることはない。それでも支えてもらった人への感謝の想いはユニホームを脱いでも持ち続けていたいと考えている。18年間の現役生活で数々の記録を打ち立てた。すべては支えてくれた人たちがいたから。応援をしてくれたファンがいたからだ。

「正直言うと毎日、辛かった。打った、打たなかった。勝った、負けた。その繰り返しが毎日、訪れる。いいこともあるけど、悪いこともある。その繰り返しは苦しかった。でも周りの人の存在を知ることが出来ていたからこそ頑張ることが出来たのだと思います。なによりも野球選手でなかったら、こんなに心が動くことはなかった。沢山の声援がボクの心を動かしてくれた。こんな心が動く経験はなかなか出来る事ではない。沢山、心を動かす日々を作ってくれた野球には感謝をしています」

 今はこれまでなかなか作れなかった家族との時間を大切にしながら、野球の魅力を伝えたり新しいことにチャレンジをしたりしている。引退をしてもなお精力的な毎日だ。鳥谷は言う。「終わりは新しい事の始まりでもあるから」。最後までクールに妥協なく信念を貫き通し野球選手としての鳥谷は終わりを迎えた。そしてもう新しい道を真っすぐに進んでいる。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ウィンターリーグ2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/50857 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。

「正直言うと毎日、辛かった。でも…」ロッテ・鳥谷敬、18年に及ぶ現役生活の終わりに語ったこと

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春野球をフォロー
文春野球学校開講!