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レッジョ・アプローチが日本の子供の弱点を補う

 本書のテーマであるレッジョ・アプローチは、子供を無力で、大人から一方的に物事を教えてもらうべき、未熟な存在とみなしません。子供を、大人と同じ権利を持った人間として認めた上で、子供の自発的な選択、発想、意志といったものを最大限に生かします。これによって子供たちの自主性、創造力、決断力、表現力が伸びていきます。

 レッジョのプレスクールで学ぶ子供たちを見て、よく驚かれるのは、パソコンやプリンター、ウェブカメラといったハイテク機器を使いこなしているだけでなく、アクリル絵の具や泥、針金といった、ふつうは幼児に触らせないようなものを使って、自在にものを作り出していることです。こうした「汚れるもの」「あぶないもの」から遠ざけるのではなく、子供たち自身が注意して扱えるよう大人がサポートするのが、レッジョの考え方といえるでしょう。

指に絵の具をつけて、紙の上にスタンプ!

 また、レッジョ・アプローチの教育法には「時間割」というものがありません。その日にやる主な活動のプログラムは、朝のミーティングの時間に子供たち同士が話し合って決めます。こうしたことによって「指示待ち」人間とは違う、将来、イノベーションを起こせる能力を持った人材が育っていくのです。

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 もう1つ重要な点は、レッジョ・アプローチが、グループで話し合い、行動する、つまり「協働」することを重視しているということです。そうした中で、子供たちは他者とコミュニケーションをとり、ネゴシエーションし、お互いの考え方や好み、立場の違いをすり合わせながら物事を前に進めていきます。本当の意味での社会性を伸ばしていくことができるのです。

 たとえば、本書の中でも紹介した例ですが、ある4歳児のグループが皆で使っている小テーブルの長さを測ることになりました。彼らはメジャーや物差しのような道具を持っていないし、使い方も知りません。どうしたと思いますか? 最初は毛糸で測ろうとしていたのですが、両側から引っ張ると伸びて長さが変わることに気付き、話し合いの結果、引っ張っても長さの変わらないお絵描き用のカラーマーカーを使うことにしたのです。テーブルの長さは「カラーマーカー8本とペットボトルのふた1個分」であることがわかりました。彼らは4歳にして、ちゃんと協議し、皆で協力し合ってものごとを解決する能力を持っているのです。

みんなで議論しながら「動物のおうち」の壁用の木材を選ぶ

 このような観点から見ると、レッジョ・アプローチには、日本の子供たちの弱い点を補う力があると思います。もちろん、幼児教育だけで教育問題が解決するわけではありません。しかし、コミュニケーション能力、社会性、創造性といったものの基本的な部分は、子供時代のごく初期に形成され、その人の生涯にわたって決定的な影響を与える、非常に重要なものとなります。ですから、レッジョ・アプローチの幼児教育を経験する子供は、確実に大きなプレゼントをもらうことになるでしょう。