「もったいない!」大女優からのオファー
だが、彼女を心配して店に来てくれた女優の大地真央にその考えを話したところ、「もったいない!」と言われてしまう。後日、あらためて連絡があり、大地主演の舞台『紫式部ものがたり』への出演をオファーされ、芸能活動の再開を決める。復帰にあたっては、名義も本名(当時)の神田沙也加に改めている。
復帰後も順調なときばかりではなかった。2013年には、体調不良のため決まっていた舞台をすべて降板せざるをえなくなり、仕事が激減する。そこで生活費を稼ぐため、こっそりダイニングバーでアルバイトを始め、《平日は終電、土日はラストまでいて、ファーストフード店で100円のドリンクを飲んで始発を待ち、明け方帰宅する日々》をすごすうち、《これで芸能界から身を引いていくんだな》とぼんやり思うようになっていたという(※1)。米アニメ映画『アナと雪の女王』の日本語吹替版の声優オーディションを受け、合格したのはそんな時期だった。
『アナ雪』で母から自立
2014年に公開された『アナと雪の女王』は大ヒットし、吹替版でヒロイン・アナを演じた沙也加は、その演技と歌声で一躍話題を呼ぶ。同年にはギタリストのBillyとのユニット・TRUSTRICKを結成し、アルバム『Eternity』をリリース、女優としてもドラマや舞台にあいついで出演した。さらには大晦日のNHK紅白歌合戦にも出場する。紅白では、ニューヨークからの中継で『アナ雪』本国版でアナの姉・エルサを演じたイディナ・メンゼルと同作の挿入歌「生まれてはじめて」をデュエット。さらに主題歌「Let It Go~ありのままで~」を2人と一緒にNHKホールにいる歌手全員で合唱した。そのなかには、同年の紅白で初めて大トリを務めた母・松田聖子が涙する姿もあった。沙也加が紅白に初出場したのはその3年前だが、このときは母と一緒に「上を向いて歩こう」を歌った。だが、『アナ雪』への出演を機に、沙也加は名実ともに母からの自立を果たしたといえる。それでも本人にとっては、『アナ雪』はようやく到達した出発点にすぎないという。
《自分がやりたいと思う一つのことを続けていたらどうなるか……という試みが引き寄せた『アナと雪の女王』。この仕事を経て、やっと地に足がついたというか、自分が目指していた出発地点に到達することができたと感じています。いよいよこれからが本番です》(※2)