「セリフをいれない」という挑戦
――この作品には登場人物たちのセリフ、いわば「ネーム」が出てきません。文字表現を使わず、すべてキャラクターの身振り手振りだけで物語が進行していますが、最初からネームなしで行こうと考えていたのでしょうか?
たき 以前から「サイレントマンガ」を描きたいと思っていたんです。
また、私の姉の夫がアメリカ人で、日本語は読めないのですが、日本のマンガやアニメが大好きで、翻訳されたものを読んだり見たりするような人なので、私が描いているものが読めないのが残念だって言うんです。
でもマンガってまず第一に絵があるから、それだけで伝えることもできるはずじゃないかと考えたのがきっかけでした。
――なるほど。ネームをなくすことで対象読者が広がるわけですね。
たき Twitterにあげさえすれば海外の人も見られますよね。日本と海外とでは右開きと左開きで読む向きも違います。だからネームをなくして、その上でさらに、誰が見ても迷わないように1画像につき2コマにして、絶対に間違えないようにしたんです。
そうしたら本当に海外の人から反応あって、中国の人にも、フランスの人にも、アラブの人にも通じたようで、うれしかったですね。
――海外からはどんな反響がありましたか?
たき 「かわいい」とか「haha」とか「うちの猫もこんな感じ」とか、日本とだいたい同じ反応でした。「猫かわいい!」と思っているのはみんな一緒みたいで(笑)、世界共通の反応がありますね。
誰も迷わない「マンガのユニバーサルデザイン」へ
――紙の本にするときも「迷わないように」という工夫は考えたのでしょうか?
たき 1ページを2コマにしたいとお願いしました。編集さんはオーソドックスな1ページ8コマの構成を提案してくれたのですが、気持ちはすごいわかるんですけど、「1ページ2コマなら縦にしか遷移しません。誰も迷わない見せ方でやりたいんです」と伝えました。コマがちょっと大きくなっちゃうんですけど、ページの水増しみたいに思われたら悲しいので、その分、この手のマンガにしてはページ数を増やして、束を厚くしたんです。
ほかにも、1つのエピソードごとに背景の色を変えたりとか、読者の方が迷わずに読めるよう、編集さんと一緒に一生懸命考えました。マンガのユニバーサルデザインですね。私のやりたいことをやらせてもらった感じです。これなら海外の人も、ちっちゃい子でも読めるかなと思って。
――ネームがないマンガというととり・みき先生の『遠くへいきたい』などの先行作品がありますが、参考にしたものはありましたか?
たき 姉が読んでいた英字新聞に『Peanuts』が載っていたんですけど、それを子どものころに読んでいました。ネームはありますが、なにしろ子どもだった私には英語は読めませんから、キャラクターたちの絵だけを見て理解しようとしていたんですね。ああいう4コマをイメージしていました。
――実際にお描きになってみて、どういったところで困ったりとか工夫したりしましたか?
たき どうしても文字を使わなきゃいけないとこがたまに出てくるんですよ。たとえば動物病院に行くシーンで、そこがなんなのかわかるようにしなきゃいけないから、“animal clinic”と描いたりとか、病院のマークを入れたりとか。あとは猫が日本語でなにか喋ったみたいに鳴いた! といったネタは、ちょっと使えないですよね。