羽生は、4回転4種類を成功させており、トリプルアクセルの質も高く、4回転半に最も近づいている。一方、世界選手権三連覇で北京五輪の金メダルを狙うネイサン・チェン(米国)は、4回転アクセルはリスクが高いため挑戦しないと明言しており、「もし成功するとしたらユヅル。僕も観てみたい」とエールを送っている。
「暗闇の底に落ちていく感覚」
羽生は2季前から本格的な練習に着手し、19年12月には大会の公式練習中に「4と4分の1回転」まで回せている状態を披露した。さらに昨季は、コロナ禍のなか練習拠点のカナダへ渡ることができず、一人で練習を重ねた。
「これだけ長い時間一人でやるのは、迷いも悩みも増えました。自分がやっているトレーニングや練習の方法が無駄に思える時期がすごくあって、そもそも4回転アクセルって跳べるのか、と。一人で暗闇の底に落ちていくような感覚の時期がありました」
12月の全日本選手権では、4回転アクセルは入れず、パーフェクトの演技で合計319・36点、5年ぶり5度目の優勝を果たした。五輪三連覇が現実味を帯びてくるような得点と内容だ。しかし会見で彼の口から出た言葉は、やはり4回転アクセルへのこだわりだった。
「とにかく4回転半を試合で降りたいです。そこが何度も言ってるように最終目標です。自分がイメージしているアクセルの幻想と、自分の身体とのギャップを早く埋めつつ、最大限の努力をしていきたいです」
21年3月の世界選手権までは、4回転アクセルの練習に没頭した。
「かなり死ぬ気でやっていたので、他のジャンプは練習しないでアクセルだけ2時間という日もありました」
成功者のいない4回転アクセルは、どれが正解の技術か分からない。高さ、飛距離、回転速度など、あらゆる条件を調整しながら、トライし続けた。