19歳で迎えた2014年ソチ五輪では、当時の世界王者パトリック・チャン(カナダ)を制して優勝。さらに18年平昌五輪は、演技を終えた瞬間に「(自分に)勝ったと思った」という渾身の滑りで連覇を果たした。
目標は金メダルではなく……
それから3年。空に羽ばたくような美しい4回転ジャンプも、観る者と一体化するような表現力も、円熟期を迎えた。27歳で迎える北京五輪に、周囲が「三連覇」を期待するのは当然のことだろう。
しかし、常に自身の限界を超えていこうとする彼は、金メダルよりも高いハードルを渇望した。北京五輪に向けての目標を聞かれると、こう答えた。
「平昌五輪のような『絶対に金メダルを獲りたい』という気持ちはありません。このシーズンで必ず4回転アクセルを決めるんだという強い意志はあります」
羽生は、言霊を大切にする。「目標を口にして、言葉にがむしゃらに追い付いていく」という彼が、こう言い切るには、相当の覚悟があっただろう。「4回転アクセルを決めて三連覇」と表現しなかったということは、それだけ前人未踏の4回転アクセルの壁が高く、そして決意は固いということだ。
“4回転アクセル”がもつ意味
そこまで羽生が目指す4回転アクセルとは何か。これは、彼だけでなくすべてのファンや関係者が改めて向き合わねばならないだろう。
フィギュアスケートのジャンプは6種類あり、アクセルだけが前向きに踏み切って半回転多く回る。かつて3回転が最高の回転数だと思われていた時代に、トリプルアクセルを跳んだブライアン・オーサーやブライアン・ボイタノらが、高難度ジャンプの時代を切り開いた。また女子初のトリプルアクセル成功者である伊藤みどりは、92年アルベールビル五輪で、フリーの演技後半に成功。その後29年、後半で成功させた女子はいない。「アクセル」はいつの時代も、人類の限界を示す指標となってきた。