ほんとうなら、代々木のリンクで滑っている姿があったはずなのに……。
11月12日に開幕して、14日のエキシビションまで3日間開催されたフィギュアスケートのNHK杯。日本の選手をはじめ、海外のトップ選手を国内で見られる機会とあって楽しみにしている人は多かった。しかし、2022年2月に開幕する北京冬季オリンピックまであと3カ月に迫った11月4日のニュースによって、その気分は一転した。羽生結弦がNHK杯の欠場を発表したのだ。
羽生が出場するとあって争奪戦状態だったチケットも、欠場を発表したあとには出回り始めたようだ。現在のフィギュア界では、違法な方法を使わずともチケットを購入した人がリセールに回す方法が確立している。羽生の欠場発表後、NHK杯のチケットはかなりの数がリセールに回された。
「オリンピックに集中する戦略では?」と陰謀論まで
羽生の怪我の原因は、練習中の転倒だという。発表されたのは「右足関節靱帯損傷」、羽生は以前にも右足を傷めたことがあり、長年の活躍でダメージが蓄積しているのだろう。
羽生の出場を楽しみにしていたファンが落胆する一方で、「またか」というネガティブな声も小さくない。最大の理由は、北京冬季オリンピックが控えているシーズンであることだ。オリンピックに出場できるシングル日本代表は男子、女子ともに3名ずつ。12月下旬の全日本選手権が予選のような位置づけだが、その選考方法には“抜け穴”が存在するのも事実だ。3人の選考基準は以下だ。
*1枠は全日本選手権の優勝者
*2枠目は、全日本選手権の2位と3位、グランプリファイナル出場者上位2名、国際スケート連盟のシーズンベストスコア上位3名の中から1人
*3枠目は2人目の基準を満たしていなくても、世界ランキングなどを考慮して選考
全日本選手権への出場が条件とはなっているが、過去に世界選手権で表彰台を経験している選手については怪我などに考慮する、ともある。
そして羽生は3年前の平昌オリンピックに、3枠目で出場している。それが「またか」という声の背景だ。
2018年の平昌オリンピックを控えた2017年のNHK杯で、羽生は公式練習で負傷し棄権した。その後も欠場を続け、全日本選手権にも出場しなかった。しかし代表に選ばれて出場した平昌オリンピックでは金メダルを獲得している。
結果を見れば羽生を日本代表に選んだスケート連盟の選考は正しかったことになる。しかし、当時も羽生に対する批判の声はあがっていた。「贔屓ではないか」といったものから、「オリンピックに集中するための戦略では?」という陰謀論めいた推測をする人さえいたのだ。