フィギュアスケート選手の羽生結弦が書いた「卒論」が起こした波紋が、静かに広がっている。
羽生は2020年に、早稲田大学人間科学部の通信教育課程を卒業した。2013年の入学から7年かけての卒業だが、その間にソチと平昌で2つの金メダルを取ったことを考えれば、それを遅いとは誰にも言えないだろう。むしろどうやって卒業したのか不思議になるほどのハードスケジュールであったはずだ。
しかしその羽生が早稲田での学びの集大成として取り組んだ卒業論文が、フィギュアスケート界で思わぬ反応を呼び起こしている。
「羽生がフィギュアの採点に怒っている」という反応
入学以来、羽生は一貫してフィギュアスケートの、それも「動作」に関心を持っていた。卒論のタイトルも「フィギュアスケートにおけるモーションキャプチャー技術の活用と将来展望」である。
映画の製作などで用いられる「モーションキャプチャ」を活かして、フィギュアスケートの動作を解析するのが主なテーマだった。長くフィギュアスケートを取材するベテランの新聞記者は卒論についてこう語る。
「テーマの選定に、羽生さんのキャリアが強く反映されていますよね。採点競技の定めとして、ジャッジの採点に対する不満や疑念はフィギュアスケートにもつきまとってきました。羽生さんはその問題に巻き込まれた1人で、『得点が低すぎる』と怒るファンがいる一方で『過大評価だ』という批判の対象にも晒されてきたんです。
現在は以前の『芸術点』のような漠然とした基準はなくなり細かく採点基準が決まっていますが、それでもジャンプの回転が足りていたか、踏み切りは正しかったか、という判断は各ジャッジに委ねられている部分が大きい。羽生さんは、デジタルデータを活用することで、より納得感のある採点ができると感じていたのでしょう」
指導教授によると羽生の卒論は分量、内容ともにすぐれたものであったというが、「羽生がフィギュアの採点に怒っている」という形で意図せぬ反響を呼んだ。
たしかに、羽生は卒論の中で「稚拙なジャンプ」という表現で、正しくないジャンプを表現している。それを、「ジャッジが稚拙なジャンプを判断できないのをいいことに、不正に高い得点を得ている選手がいると怒っている」と読みといたのだ。