2021年1月12日、作家の半藤一利が90歳で死去した。文藝春秋で「週刊文春」「文藝春秋」編集長、専務取締役などを歴任後、本格的な作家活動に入り、「歴史探偵」として昭和史をメインテーマに、『聖断』、『ノモンハンの夏』など数多くの著書を世に出してきた。
なかでも、綿密な取材で「8・15」をめぐる人間ドラマを活写した『日本のいちばん長い日』は代表作のひとつ。1965年の刊行以来、版を重ね続けるロングセラーだ。これまでに、岡本喜八監督(1967年)と原田眞人監督(2015年)によって映画化もされている。
敗色の濃い昭和20年夏。連合国によるポツダム宣言をめぐって、受諾派の海軍・外務省と徹底抗戦派の陸軍・大本営とで、鈴木貫太郎内閣の意見は真っ二つに分かれていた。広島への原爆投下、ソ連の参戦と徐々に追い詰められる中、いよいよ昭和天皇の聖断を仰ぐことに。一方、青年将校らによるクーデター計画も水面下で進んでいた……。
この不朽の名作が、『海帝』や『宗像教授シリーズ』などで知られるSF・伝奇漫画の巨匠、星野之宣によってコミカライズされることになった。コミカライズ版では幕末の「尊皇攘夷」思想から説き起こし、新たな視点で青年将校と昭和天皇の対立、玉音盤を巡る争奪戦などを描いている。
文春オンラインの連載から、その内容を抜粋してご紹介しよう──。
運命の1日は尊皇攘夷から始まった
物語は、1853年の黒船来航から始まる──。アメリカの艦隊は徳川幕府に開国を迫り、日米条約を結ばせる。これを弱腰と見て、水戸藩の狂信的な史学から発したスローガンが全国に広まった──“尊皇攘夷”である。
“尊皇攘夷”思想の流行は、歴史の陰に隠れていた二つの存在を表舞台に立たせることになる。天皇家と下級武士たちだ。その流れはやがて、倒幕へと結びついていく──。
明治維新後、軍部は天皇直属の”統帥権”を主張し、議会や内閣から独立した存在となっていく。時代は昭和へと移り、1936年、青年将校らによる「ニ・ニ六事件」が勃発した──。