「この契約内容はタレントにとってあまりに不利」
2020年6月、この株の売買をめぐって、H氏がDJ社長にある契約書を送っている。そこには、4800万円の退職金をH氏へ支払うこと、楽曲の権利をH氏に委譲することなどが記載されていた。
DJ社長はこの契約書について「あれもこれも欲しいと要求された。自分たちの作った楽曲は自分たちで持っておきたい」と主張。ファンの間でも、【2 H氏からの4800万円の退職金要求は妥当か】【3 H氏が楽曲の権利やレペゼン地球の商標権を主張するのは妥当か】について議論されている。
前出の牛島弁護士が解説する。
「【2】についてですが、退職金の金額は、通常、会社に退職金規定がある場合はそれを元に金額を決定しますが、会社にその規定がない場合は自由に決定することができます。しかし、その金額の支払いを決定するには株主の合意が必要です。ですから今回は、共同代表で株主でもあるDJ社長に『退職慰労金支給に関する合意書』を送ったのでしょう。
もっとも、その金額の支払いのためには株主総会の決議が必要です。しかしH氏は過半数である51%の株を所有しているので、DJ社長が認めなくとも退職金の支払いは可能です。
【3】についても、H氏の主張が間違えているとは言えないでしょう。双方が取り交わした専属契約書には、権利帰属についての文面があり、それによるとレペゼン地球の商標権や楽曲の権利はLife Group株式会社に帰属していますから。DJ社長らは契約を終了した時点で、楽曲やグループ名を自由に使用できなくなります」
しかしながら、エンタテイメント法務や知的財産権関係、芸能トラブルなどに詳しい伊藤海弁護士は「この契約内容はタレントにとってあまりに不利」とも話す。
「確かに今回問題となっている権利は、公の秩序や強行法規に反しない限り当事者が契約により自由にその帰属を決定できます。ですから今回のケースでも、DJ社長らがLife Group株式会社との契約を終了した時点で楽曲の権利やグループ名の商標権を手放すことになっても、法律上直ちに問題とはならないのです。
ただ、今回はDJ社長自身が制作している楽曲です。タレント側に立つならば、契約の終了とともにタレントに権利を帰属させるというのが望ましい。もしくは、契約終了時に協議をするというのがお互いに譲歩した内容ではないでしょうか。
エンタテインメント先進国のアメリカでは日本と違い、タレントが強い。タレントの才能があるからこそ作品が作られるという考えなので、その才能が生み出したものをタレントに帰属させるのは当たり前という考えがあります」
芸能活動制限については過去に訴訟へ発展した事例も
DJ社長らがH氏と和解しない限り、レペゼン地球というグループ名を名乗ったり、過去の楽曲を使用したりすることは難しそうだ。しかし一方で、伊藤弁護士によると契約書には「適切ではない」項目もあるという。
伊藤弁護士が着目したのは、《本契約終了後3年間、日本国内又は国外を問わず、乙は以下の行為を行わないものとします》とし、DJ社長が契約終了後に他の芸能事務所に所属したり個人事務所を設立することを禁じる条項だ。