「契約書をライブ前の時間に楽屋などで締結したということ自体は違法ではありません。ただ契約内容を理解させないまま契約の締結をしたり、今すぐに契約を迫る、無理矢理契約をさせたりなどしている場合、『詐欺・脅迫』により契約が取消しの対象となったり、そもそも契約が『錯誤』により無効となる可能性があります。
また、タレント側が断りにくい立場にあり、立場が上の人物が不利な契約を迫った場合は、独占禁止法で禁止されている『優越的地位の濫用』に該当する恐れもあります。優越的地位には、タレント側の無知に付け込むような行為も該当し、タレントの年齢が若い場合は無知であると認められます。元レペゼン地球のメンバーのように20歳を超えたばかりなど、若ければ若いほど無知と認められる可能性は上がります。
『優越的地位の濫用』に該当する場合、独占禁止法第19条(不公正な取引方法の禁止)及び一般指定第14号(優越的地位の濫用)に抵触するとし、契約を無効にする『排除措置』などが命ぜられます」
事務所側はタレントが納得できる契約を結ぶ努力を
DJ社長とH氏の正当性を考える際には、契約書の内容が適切だったかどうかが大きな焦点になりそうだ。
加えて、前出の牛島弁護士は「DJ社長には、個人として49%の株主でもあるのなら、H氏の経営が適切だったかどうか追及する権利がある」とも語る。【6 H氏の経営は適切だったのか、背任や横領の疑いはないのか】という点だ。
「DJ社長は、H氏が、高級ブランド店での買い物や複数の賃貸マンションなど私的な用途で経費を使ったこと、本来は計上すべき売上金の一部を計上していなかったこと、勤務実態のない親族に給与を支払っていたことなども主張しています。この主張が事実であれば、H氏を背任や横領で刑事告訴することができます。
DJ社長はLife Group株式会社の株を49%保有している株主です。株式を有する株主は、会社に対して書面をもって、取締役の責任を追及する訴訟(会社による責任追及等の訴え)を提起するよう請求する権利があるのです」
DJ社長とH氏のすれ違いはどこで起きてしまったのだろうか。前出の伊藤弁護士は「私見になってしまいますが」と前置きし、こう語った。
「大前提として、契約は芸能事務所、タレントの双方が好ましく納得できるものであるべきです。そのためには、事務所も目先の利益だけでなく、中長期的にタレントが所属しやすい環境になる契約書を作成することが望ましい。
これまで様々なタレントやアーティストの相談に乗りましたが、人気が出て伸びる人は、事務所との信頼関係が厚いことが多いんです。だから、事務所側は自社の利益を守りながらも、タレントが納得できる契約をする努力をすべきです。タレントを拘束したり、不利にさせる契約は、結果的に自分の首を締めることに繋がってしまいますから」
タレントと事務所のトラブルは後を絶たない。DJ社長とH氏はどのような条件で決着を迎えるのだろうか。