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「賃上げはコストではない」岸田文雄首相が“新しい資本主義のグランドデザイン”を初公開《中国とどう対峙する?》

 昨年10月、「新しい資本主義」を掲げて第100代内閣総理大臣に就任した岸田文雄首相。経済成長の果実が社会全体に行き渡っていないために格差が広がってしまったとの問題意識のもと、「成長と分配の好循環」の実現を目指すとしてきたが、「中身がよくわからない」といった批判もあった。

 そうした中、岸田首相は「文藝春秋」に「私が目指す新しい資本主義のグランドデザイン」を緊急寄稿、ビジョンの具体策を初めて公開した。

権威主義国家に対抗する「資本主義のバージョンアップ」

 冒頭、岸田首相はいわゆる新自由主義の弊害を指摘。中国をはじめとする権威主義国家の台頭に対抗するため、「資本主義のバージョンアップ」の必要性を説く。

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「市場や競争に任せれば、全てがうまくいくという考え方が新自由主義ですが、このような考え方は、1980年代以降、世界の主流となり、世界経済の成長の原動力となりました。他方で、新自由主義の広がりとともに資本主義のグローバル化が進むに伴い、弊害も顕著になってきました。

 市場に依存しすぎたことで、格差や貧困が拡大したこと、自然に負荷をかけ過ぎたことで気候変動問題が深刻化したことはその一例です。欧米諸国を中心に中間層の雇用が減少し、格差や貧困が拡大しました」

岸田文雄首相 ©文藝春秋

「資本主義が課題に直面する一方で、世界を見回すと、権威主義的国家を中心とする国家資本主義とも呼べる経済体制が勢いを増しています。貧困や格差拡大による国内での分断によって民主主義が危機に瀕する中で、国家資本主義によって勢いを増す権威主義的体制からの挑戦に対し、我々は、自ら資本主義をバージョンアップすることで対応するしかありません」

「人への投資」こそが成長戦略でもある

 では、具体的に私たちの生活はどのように変わるのか? 岸田首相が強調するのが「賃上げ」の重要性である。

「賃上げも、『コスト』ではなく、未来への『投資』であり、人的資本への投資の重要な構成要素です。最近の春闘の結果は、2019年に2.18%、2020年に2.00%、2021年は1.86%と賃上げ率が低下傾向にあります(厚生労働省の統計)。

 このように、低下傾向にある賃上げの水準を、一気に反転させ、新しい資本主義の時代にふさわしい、賃上げが実現することを期待したいと思います。

 労働力をコストと捉え、人件費の抑制によってわずかな収益を確保するという経営は、新しい資本主義における企業の理想像ではありません。優れた人材が生み出すイノベーションによって社会の課題を解決して、人への投資に見合った利益を実現することが、新しい資本主義が目指す成長と分配の好循環を実現する鍵です。