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保育に介護…「ケア労働」の現場で“大人のいじめ”が起こりやすい“残酷すぎる理由”とは

2022/02/05
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 これは、ケア職場だけの問題ではない。独自のアイディアや意見、熟練した技術をもつなど、本来は職場や地域、社会に貢献する力を持っている労働者が、「反抗的」だという理由でいじめられるという相談が数多く寄せられている。労働者の力や特性を生かすのではなく、ひたすら従属する姿勢ばかりが企業にとって求められているのだ。

 経営者や国が、生産力を上げるために新たな技術や教育に投資するのではなく、労働者の使い潰しに依存しつづけることは、怠慢だといえよう。しかし、現場の労働者たちは彼らを突き上げて改善を迫るのではなく、言われるままに服従し、いじめを駆使して相互に仕事を押し付けあうことで、「自発的」に経営者たちの「尻拭い」をするという絶望的な構図が繰り広げられている。筆者は、日本社会が自壊していく様子を、いじめ相談の現場から目の当たりにしているのだ。

現場から社会を変えていく実践を

 職場いじめの蔓延や、それを生み出す使い潰し型の社会を転換させることは、国や政治家、経営者に期待しても、現在の日本社会では無駄だろう。いまのこの経済のあり方に、労働者やケアが犠牲にされる社会に、違和感をもった人たちが、下から変えていくしかない。経営服従型いじめを跳ね返し、職場に対して権利行使をするのだ。

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 特にケア労働者には、高い志を抱いてこの仕事についたにもかかわらず、利益追求と従属が何よりも優先されてケアがおざなりにされる現状に、強い疎外感を抱いている人が多いはずだ。職場の同僚は必ずしも味方してくれないかもしれないが、外部の専門家や、NPOや労働組合のような支援団体のサポートを受けることで、まずは声を上げ、労働者としての権利を行使することは可能だ。

 筆者が加盟する介護・保育ユニオンが組織する都内の認可保育園では、保育労働者10名以上が約100世帯の保護者たちと連携して、企業に立ち向かって終日ストライキを実施し、ハラスメント園長を追放して、職員数を増加、賃金も上げさせることに成功した。利益追求や従属が、人の命よりも最優先される論理に歯止めをかけ、自分たちの力で手厚いケアをつくっていく労働運動は、日本でも現実に可能なのだ。利益優先の企業に対して防波堤を築き、まともなケアを実現する推進力は、現場からの突き上げしかない。

 私たちは、さまざまなかたちで、誰かが過酷な環境で行っているケア労働に支えられて生きている。自身がケア労働者でない方でも、ぜひこうした取り組みに興味を持ち、その運動を支援してみてほしい。こうした社会運動こそが、職場いじめや、経営の論理に侵食された社会を変える、着実な実践になるのだ。

【続きを読む】人格否定と無視も“指導”のうち…「可愛いから許されるって思うなよ」保育園で起きた大人同士の“残酷ないじめ”の実態に迫る

大人のいじめ (講談社現代新書)

坂倉 昇平

講談社

2021年11月17日 発売

保育に介護…「ケア労働」の現場で“大人のいじめ”が起こりやすい“残酷すぎる理由”とは

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