厚生労働省の調査によると、労働についての相談は9年連続で「いじめ・嫌がらせ」が最も多く、さらに職場の「いじめ」によって精神障害を発症した件数は、この11年でなんと10倍にまで膨れ上がっているという。
「職場いじめ」はなぜ発生してしまうのだろうか。ここでは、2006年に労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」を設立し、現在に至るまで膨大な数の「いじめ・嫌がらせ」相談を受けてきた坂倉昇平氏の著書『大人のいじめ』(講談社現代新書)の一部を抜粋。保育園で起きたいじめの事例、そしてその原因について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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社会福祉法人が経営する園児100人ほどの大規模な認可保育園に、新卒未経験で就職した20代のFさん。採用面接のとき、入社1年目は、先輩の保育士について勉強すると言われて安心していた。
ところが、園内には、配置基準(編集部注:保育士1人に対し、何歳の子どもを何人まで保育できるかという基準。各自治体によって定められる)ギリギリの人数の職員しかおらず、そんな余裕はなかった。前の年の離職者も多かったようで、Fさんは4月から、いきなり幼児十数人の主担任を任されることになった。園長に相談して、新人で経験もなく無理だから辞めたいと相談したところ、「もう少し頑張ろう」と励まされるだけだった。
一方で、先輩や同僚からは「可愛いからって許されると思うなよ」と、担任を拒否しようとしたことでいじめの対象となった。指導でも他の人より厳しくあたられ、無視されるなどのいじめが始まった。
過大な業務といじめに耐えかね、Fさんは精神疾患を発症して約3ヵ月で退職。もう保育園では働きたくないと考えている。
人格否定と無視も「指導のうち」
20代のGさんは、150人の園児を抱える大規模な保育園で働き始めた1年目の正社員保育士である。入社前の面接の雰囲気は良かったのだが、いざ働き始めてみると、自分だけ目をつけられ、主任から「指導」と称して「バカ」などと人格を否定する発言をされた。Gさんは、「指導」を受けるたび、ひたすら謝り続けなければならず、食欲がなくなり、眠れないなどの症状に悩まされるようになった。また、この主任はその日の気分で態度が変わり、無視されるなどの嫌がらせが半年以上続いた。